瑛人・YOASOBIら“スマホ発のヒット”続出の理由は? LINE MUSIC×TikTokのキーパーソンに聞く
「若い世代には“旧譜”という意識がない」(佐藤)
――特に今年上半期はTikTok内でもネタ動画のようなもの、ダンスチャレンジのようなアクティブなものよりも、切ない気持ちを共有するような動画がトレンドになることが多い印象がありました。ユーモアよりもエモーションがキーになってるように思います。
佐藤:ご指摘の通り、「エモい」という言葉で表現されるタイプの、心情に寄り添うもの、半歩ひいた表現が増えてきているように思います。以前は中毒性のあるものが伸びていたタイミングもあったんですが、今は楽曲の歌詞を文字にして画面に出すもの、歌詞のメッセージを感じ取るもの多い。そういった欲求が多く出てきているように思います。そのあたりはコロナ禍で社会的なストレスが高まっているがゆえに、全体的な世の中のムードが少し内省的になっていることもあるのかもしれない。いろんな要因が作用していると思います。
出羽:佐藤さんの仰るとおり、LINE MUSICのランキングに入ってきているTikTokきっかけのヒット曲も、以前より歌詞に重きを置いた曲が増えていると思います。「LINE MUSIC部」の女子高生たちも歌詞がいいかどうかで自分がその曲を好きかどうかを判断しています。自分に当てはまる歌詞だと何度も聴きたくなるし、TikTokの動画にも歌詞を表示してみんなに見せたがる。言葉が強調される動きがあると思います。
――瑛人さんの「香水」がまず代表だと思いますが、それ以外にもそういった歌詞への共感からヒットしたタイプの曲はありますか?
出羽:りりあ。さんの「浮気されたけどまだ好きって曲。」がまさにそうですね。これは恋愛をテーマにしている歌詞で、共感しやすい。あとはRin音さんの「snow jam」やTani Yuukiさんの「Myra」もそうで、このあたりの曲を若い子が「エモい」と言っています。
――そういった歌詞の曲に特徴的な曲調はありますか?
出羽:チル系というか、ゆったりしたメロディの曲が流行っているというところはありますよね。「弾いてみた」や「歌ってみた」でカバーしやすい曲というのもあると思います。コロナの影響もあって、女子高生の子たちがアコースティックギターを始めたりしているそうなんです。TikTokで普段から動画をあげている女の子たちが弾き語りしやすい曲、という視点もあると思います。
――YOASOBI「夜に駆ける」に関しては、TikTokやLINE MUSICでの反響はどうでしょうか?
出羽:言葉に重きを置いているというところは共通しているんですが、瑛人さんやRin音さんとは曲調はちょっと違いますね。
高橋:YOASOBIはTikTokだけじゃなくYouTubeのアニメーションMVが大きいと思います。小説が由来なので、メディアミックス的な魅力もある。いわゆるTikTok発のヒットとは違うルートだと思っています。
佐藤:僕もそう思います。YOASOBIさんはMVの世界観を大事にしている。そういう映像の世界にインスパイアされているようなところはあると思います。
出羽:YOASOBIについては、曲を作っているAyaseさんがもともとボカロPですよね。yamaさんの「春を告げる」も、曲を作っているくじらさんがボカロPで、そこから有名になってきている。やっぱりMVの作り方を見ると、アニメーションにものすごく力を入れて作り込んでいます。そういったボカロ文化からヒットチャートに曲が出ている流れもあると思います。
佐藤:ただ、面白いのは、こうした楽曲をTikTokで知った際に「もともとボカロPの曲だ」ということを認識していない方が多いんですね。TikTokから楽曲がバイラル的に広がるときは、元ネタを知らずに広まることが多い。アーティストの前提知識とか楽曲の由来を全く知らずに、他の人がその曲を使った動画をきっかけに曲を知るパターンがほとんどなんですよね。そういう形で音楽に触れることのできるプラットフォームになっている実感があります。
――他にもTikTokきっかけでLINE MUSICで聴かれるようになるタイプの楽曲の傾向はありますか?
出羽:新曲だけでなく洋楽も含めた旧譜がランキングに上がってくる傾向もありますね。「Banana (feat. Shaggy)」は2019年の曲ですが、短尺だからこそ繰り返されることでインパクトが生まれる曲ということもあり、“ #サングラスずらしダンス”や“#サングラスチャレンジ”といったダンスチャレンジで使われることで、流行っています。そういう流れが生まれているのが面白いですね。
佐藤:若い世代には「旧譜」という意識がないんじゃないかと思います。
高橋:ないでしょうね。
出羽:どんな曲でも、リスナーが出会った時がその人にとっては”新曲”であって、すべてが新鮮である。そういう感じはありますね。
佐藤:たまたま過去の楽曲を発見した誰かがその曲で動画を作って、それが面白いとなって拡散していって、真似して作る人が沢山出る。そういう動きが起こっているときに、それを旧譜だと思っているのは上の世代だけだと思います。そのきっかけで曲を知ったユーザーにとっては新曲になる。
出羽:そういうこともあって、ヒットの生まれる過程は変わってきていると思います。数年前までのLINE MUSICのヒットチャートは新曲が中心だったんですね。発売週に1位になって、そこから徐々に落ちていくのが普通だった。けれど、瑛人さんのように、最初はあまり聴かれていなくても、それが気付いたらチャートに入ってきて、いろんな人がカバーすることでだんだん順位が上がっていって、長い時間をかけて1位に上り詰めるような例が出てきた。これまでの傾向とは真逆のロングヒットに繋がっているのが特徴だと思います。