TikTok初のXRライブ『The Weeknd Experience』が示す”バーチャルライブとアフロ・フューチャリズム”表現の新たな可能性
また、『The Weeknd Experience』では、テクノロジーを駆使したバーチャルライブという点以外に、アフロ・フューチャリズム的表現という視点においても興味深い内容だった。
アフロ・フューチャリズムにおいては、これまでに離散の歴史を持つ黒人コミュニティが様々な不利益を受けている自分たちが住まう現実世界には存在しない”ユートピア”を表現する際に近未来や宇宙のイメージが利用されてきた。
近未来や宇宙というと今回のライブビジュアルでも用いられていた要素だが、そこには、バーチャルライブを単に現実ではあり得ない表現ができるプラットフォームとして捉えるだけでなく、アフロ・フューチャリズム的なユートビア・ビジョンに重ねながら、『The Weeknd Experience』を“人種差別問題に立ち向かうブラック・コミュニティをエンパワーメントするもの”とするThe Weekndの意図が含められていたのではないだろうか。
その証拠に『The Weeknd Experience』では、グッズの販売収益や視聴者からの募金を人権団体「Equal Justice Initiative」に寄付することを発表しており、昨今のBlack Lives Matterに連帯する姿勢が示されている。
加えて、映画『ブラックパンサー』のインスパイアードアルバムに収録されたKendrick Lamarとのコラボ曲「Pray For Me」が、『The Weeknd Experience』では1曲目に披露されていることも興味深い。高度なテクノロジーを持つ未来的なブラック・コミュニティが描かれた『ブラックパンサー』の世界観は、近年、アフロ・フューチャリズム的なものとして語られることが多いだけに、このことからもThe Weekndがアフロ・フューチャリズム要素を意識的に取り入れていた可能性がうかがえる。
これらのことから『The Weeknd Experience』は、単にバーチャルライブの”新たな可能性”を示しただけでなく、XRを取り入れることで、これまでイメージとして、人々の頭の中で描かれてきた“近未来的かつ宇宙的なアフロ・フューチャリズムの世界観”を、XRテクノロジーを用いることで体験可能なレベルにまで具現化したものとしても捉えることもできるだろう。その意味で『The Weeknd Experience』は、ブラック・カルチャーの歴史においても大きなターニングポイントになったはずだ。
■Jun Fukunaga
音楽、映画を中心にフードや生活雑貨まで幅広く執筆する雑食性フリーランスライター。DJと音楽制作も少々。
Twitter:@LadyCitizen69
(画像=https://newsroom.tiktok.com/en-us/the-weeknd-experience-on-tiktok-liveより)