“765プロのアイドル・星井美希”による、記念すべき初配信! 話題の『あふぅTV』を振り返る

話題の星井美希『あふぅTV』を振り返る

ファンに向け配信ながら、置いてけぼりにしなかった“プロデューサー”

 そういった挑戦に加えて、『アイドルマスター』の根底にある“プロデューサーの目線を忘れない”というファンライクな部分も成功の一因だろう。中盤、ライブ準備のために画面が一旦美希の“寝言ASMR”(※これ自体もアイドルの特徴を捉えつつ流行りも押さえたナイスチョイス)に切り替わるのだが、再び画面が切り替わると、映し出されたのは配信場所の隣と思しき控室のようなスペース。そこに駆け込んできた美希は、開口一番こう言うのである。「プロデューサー!」と。

 その瞬間「やられた!」と膝を打った視聴者――いや、プロデューサーはどれほどいただろうか。そう、このときまでの配信はあくまでも“ファンへのアイドルからの生配信”。しかし、『アイドルマスター』というコンテンツの出発点は、プレイヤーが担当アイドルをトップアイドルへと導くためにプロデュースしていくゲームである。そしてこのパートだけは映像も固定カメラではなく、美希と目を合わせて会話をし、リアクションを取るひとりの大人の視線をそのまま反映したかのようなものとなる。これは間違いなく、“美希と会話するプロデューサー”の目線そのものだろう。

 だから、この言葉をかけられた瞬間、美希担当のプロデューサーにとってはそれまでの20分が“観客”としての時間から、“ファン向け配信を見守っていたプロデューサー”としての時間へと、一気に変わるのである。しかもその会話のなかでプロデューサーが選択したポーズを、この日だけのアレンジとして楽曲の最後に披露。担当アイドルをプロデュースするという経験さえも果たせてしまったのである。このやり取りが、真の意味でこの生配信を完璧なものにしたと言えるのではないだろうか。

 そして切れ味抜群のダンスと合わせて「Day of the future」を披露したあとに届けられた、“美希にしか言えないメッセージ”が最後の1ピース。「今、いろいろ大変だけど、美希もそこそこ頑張るから、無理しすぎないでそこそこ頑張ってね!」との言葉は、きっと多くの人の心に刺さったはず。この状況下だからこそ、無意識のうちに張り詰めすぎてしまったり頑張りすぎてしまっている人の心に沁み入るであろうこのメッセージを、誰よりも実感を伴わせて届けられるアイドルは、星井美希以外にいなかったはずなのだ。

 こうして約30分間にもおよぶ生配信はあっという間に終了。断腸の想いで決断されたであろう公演中止の悔しさを凝縮し、誰もが全力を傾けたからこその、記憶に残る配信だったように思う。アドリブ対応の難しさなどを踏まえれば、当たり前のようにこういった配信を行なうことは非常に難しいとは思うが、「こういったこと“も”できる」という新たなオプションは誕生したと言ってもよいのではないだろうか。

 この配信自体も素晴らしいものだったが、『アイドルマスター』というプロジェクトは、これをただの実績にするだけではなく糧にもして、各アイドルのファンもプロデューサーもさらに驚かせてくれるはず。15周年を迎えた本シリーズからまだまだ飛び出してくるであろう新たな試みに、これからも期待せずにはいられない。

■須永兼次(すなが・けんじ)
アニメソング・声優アーティスト関係を中心に活動するフリーライター。大学の卒論でアニソンの歌詞をテーマにするほど、昔からのアニソン好き。現在は『リスアニ!』『月刊ニュータイプ』や『TV Bros.』等に寄稿。

■関連リンク
アイドルマスター公式サイト
アイドルマスター15周年特設サイト
使用技術:バンダイナムコスタジオ 「BanaCAST」
(C)窪岡俊之 (C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

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