「バーチャルジャニーズ」盛り上がりの背景は? SHOWROOM前田裕二に訊く

前田裕二が語る「バーチャルジャニーズ」

 ジャニーズ事務所とSHOWROOM株式会社がタッグを組み、世間を騒がせた「バーチャルジャニーズプロジェクト」。昨年2月にスタートを発表してからもうすぐ1年が経とうとしているが、海堂飛鳥(CV:藤原丈一郎)、苺谷星空(CV:大橋和也)の2人は通常配信や生配信、コラボ配信にSNSの活用、楽曲リリースと絶好調だ。

 今回は同プロジェクトのキーマンである、SHOWROOM株式会社の代表取締役社長である前田裕二氏が登場。立ち上げの経緯をはじめ、彼が「経営理念とシンクロする」と2014年から取り組んでいたバーチャルタレント領域への思いや、巨大なエンタメ産業における同分野の可能性などについて、存分に語ってもらった(編集部)。

VJPが達成した、ジャニーズの「遠さ」とSNS時代の「近さ」の両立

――まずはバーチャルジャニーズプロジェクトを始めることになったきっかけについて聞かせてください。

前田:そもそものきっかけは、ジャニーズ事務所さまとエンタメの未来について話し合う機会があったことでした。そこで生まれた一つのアイディアが、「バーチャルアイドル」だった、というわけです。

――ジャニーズというと、インターネット露出へのハードルが高い事務所として知られており、そのなかで非常に柔軟なプロジェクトが始まった、という印象でした。

前田:前提として、「ネット進出」という言葉ひとつとっても、さまざまな意味がありますよね。「動画」もそうで、YouTubeの動画とTikTokの動画とSHOWROOMの動画は全部「動いてる画」ですが、本質は大きく異なる。これと同じで「ネット進出」という言葉でざっくり括ってしまうと、議論がズレてしまうと思っています。

ーーつまり、ジャニーズ事務所との話し合いのなかで、ただ「ネットに出ましょう」ではなく、より本質的なところで意見が合致したと。前田さんが考える「ネット進出」という言葉の本質とは、どんなものでしょうか。

前田:大きく二つあると考えています。ひとつは、表現活動をみんなが使ってる「スマホ」というデバイスに最適化していくということ。もうひとつが双方向性、インタラクティブ性を活用すること。前者だけであれば、YouTubeにこれまでと近い距離感の作品ーーたとえばミュージックビデオなどの動画を上げてしまえば、一旦の最適化はできると思います。しかし、SNSの時代が前提としている使い方は主に後者ですよね。テキストや画像、動画を投稿したら、それに対して「いいね」やコメントがついて、それが楽しくてどんどん次の投稿をする、という。SHOWROOMがここまで成長してきたのは、後者の部分を更に生配信という世界に拡張させ、大事に育んできたからだと考えています。

 

ーーなるほど。SHOWROOMはライブ配信で、配信者と視聴者が双方向的にコミュニケーションを取れるプラットフォームですもんね。「ネット進出」という言葉からそこが抜け落ちると、確かに別の議論になりそうです。

前田:これからの時代、あらゆるコミュニケーション機会が効率化されていって、人と心を通じ合わせる瞬間が減っていく可能性があります。そこで寂しさを埋めるための「コミュニケーションを軸にしたサービス」が盛り上がると予測して、SHOWROOMというサービスを運営しているんです。とはいえ、ジャニーズのタレントさんが、身近なところに降りてきてコミュニケーションすることに対して、「それでいいのか?」という不安はありました。例えば、自分の部屋から「こんにちはー!」って配信したら、一瞬物凄く盛り上がってその時は正解な気がしますが、長い目で見ると、じわじわと価値を損なっていってしまうのではないかと。

ーーこれまで遠すぎたものが一気に近くにくると、混乱するファンも多いと思いますし、ブランディングの面でも普段の活動と齟齬が出てしまいそうです

前田:「ジャニーズ」のタレントさんには多くの価値がありますが、一番の価値をつくってる源泉は、その「遠さ」にあるのではないか、と思います。ジャニーズが今まで大事にしてきたものを、変にねじ曲げて時代に適応させてしてしまうことによって、価値を毀損してしまうんじゃないかという葛藤をするなかで、「バーチャルキャラクター」という概念に行きつきました。自分以外の誰かの人格・キャラクターを介して身近に感じてもらえるようになれば、ジャニーズが持つ価値を薄めずにもいられる。

――それによって、ジャニーズの価値である「遠さ」と、SNS時代の前提となる「近さ」の両立ができると考えた。

前田:おっしゃるとおりで、「遠いけど、近い」というすごく不思議な感覚が得られるなと。飛鳥と星空に対して「好きだ」という気持ちが寄っていくことによって、2人を入り口になにわ男子のライブを見に行くようになれば面白いし、逆に藤原くんと大橋くんをきっかけにしてバーチャルの世界にハマっていただけたら、新たな楽しみが広がるのではないかと考えています。

――二次元として受け入れる人もいれば、三次元としての2人を推している人たちもいて、それがないまぜになる瞬間もありますよね。

前田:まさに。二次元と三次元のブリッジが作れたらいいな、という狙いもありました。

――そもそも前田さんが、バーチャルの分野に興味を持ったタイミングは?

前田:実は2014年くらいからバーチャル領域に可能性を感じ始めて、「こちら娘島高等学校ほーそお部」というプロジェクトを立ち上げていまいした。今となっては、VTuberの先駆けとも言えるのかもしれません。全身のモーショントラッキングを使って、声優さんの動きをキャラクターにリアルタイムに反映させて。この時は「ライブコミュニケーティングアニメ」という言葉を使っていました。発表したときの反響は中々だったのですが、いざ運用してみると、実際にそこに存在してる感覚がまだ致命的に弱かった。技術が追いついてなかった部分も大きいですし、声優さんを前面に出していたことも反省点でした。そうすることで、キャラクターが確かにそこに実在している、生きている、という感じがしなかった。その次に立ち上げた「にごどるっ!」では、CV(キャラクターボイス)が誰かというのは明かしつつ、あまり表には出ないようにしました。その後、さらなる技術的なアップデートを経て、東雲めぐが「AniCast」(VRアニメーション制作ツール)で動くようになったのが大きな転換点になったなと思います。

――当初思い描いていた理想のライブコミュニケーティングアニメが、「AniCast」によってついに実現したと。

前田:仰る通りです。「Anicast」の登場によって、演者側もゲームをやってるような感覚で、視聴者とコミュニケーションを取れるようになりました。あすかなでも、プリンが飛んできた時に、そのプリンを画面上で掴んで投げることができるようになりましたから。演者としてもその体験は楽しいと思いましたし、ジャニーさんも「子供たちが楽しいかどうか」というのをすごく重視されてらっしゃるのは分かっていたので、そこをしっかり受け継ぎたかったんです。3Dの世界に入って、配信している間はそれこそ別の人格、人生を生きているくらいの没入感になります。まさに別世界にダイブしてるような感覚で、演者にも楽しんでもらいたいと。

――前田さんがバーチャルの分野に興味を持っていたところへ技術が追い付いてきて、そのタイミングでちょうどバーチャルジャニーズプロジェクトがスタートした、ということなんですね。

前田:その通りです。そして、そもそもバーチャルという分野に興味を持ったのは、SHOWROOMの経営理念にも通ずるものがあったから。僕らは先天的な境遇や課された制約に捉われず、後天的に努力すれば報われる世界をつくりたい、という理念を掲げているのですが、まさにバーチャルキャラクターという挑戦は、その理念とシンクロしているのです。例えば、何らかの事情で顔を出したくないという演者がいる時に、キャラクターを作ってあげて、別の姿になってVR空間でライブをやったり、SNSをやったり、といった事を仕掛けられるようになる。バーチャルで表現することができなかったら、その才能は表に出てくることがなく、音楽で自己実現することができなかったかもしれない。こうして、リアルではそれぞれに制約を抱えている人が、その可能性を花開かせることができるのは、バーチャルという分野だからこそだと思っています。

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