消費サイクルが速まる中、MVはロングラン傾向に 個人・スタジオ制作の間で探る解決の糸口
長尺か短尺か 看過できない作品の消費サイクルの速さ
作品の公募でもヒントになるケースがある。例えば『CGアニメコンテスト』の歴史からは、新海誠やたつきといった、後に長編映画やテレビシリーズの監督となる例が挙げられやすいものの、MVやCMを主に制作しているクリエイターも少なからずいる。
一方これまで『あにめたまご』として実施されてきた文化庁の「若手アニメーター等人材育成事業」は、次回より「アニメーション人材育成調査研究事業」となった。こちらは公募でも作品の企画などが対象である。
そして尺も10分までと、これまでの半分程度になっており、個人でも応募しやすくなっている。とはいえ、監督ではなくアニメーターの育成が主という点に変わりはなく、スタジオなどの団体名義が必要で、まだまだハードルが高い。
なおスタジオがMVやCMを制作するケースでは、その後の展開を予感させるパターンも楽しめる。新海誠はZ会のCM『クロスロード』を制作した際に、キャラクターデザイン・アニメーターの田中将賀と組んだ。その後、長編の『君の名は。』『天気の子』とタッグが続いている。
最近のケースでもスタジオコロリドはヨルシカのMV『夜行』を制作した後、長編『泣きたい私は猫をかぶる』の主題歌として、同じくヨルシカの『花に亡霊』を発表。そのMVも同作の映像を使用したものになった。
ちなみにスタジオコロリドが制作した長編『ペンギン・ハイウェイ』は、短編『フミコの告白』などの石田祐康が監督だった。新海誠をプロデュースするコミックス・ウェーブ・フィルムのように、首尾よく個人レベルで制作できるクリエイターを起用できている。
作品の消費サイクルが速くなっていく中、尺の長い作品であると次回作まで間が持たないといった懸念もある。ただMVに関しては、楽曲でも配信の存在感が強まっただけに、尺が短くても息の長い消費サイクルになるチャンスが増加しつつあるようだ。
楽曲がランキングの上位でロングランするようであれば、少なからずMVにもその傾向が反映されやすい。予算や納期との兼ね合いはあるものの、必ずしも尺の長い作品を作り続けたいクリエイターばかりではないことも念頭に置いた、柔軟な対応も期待される。
■真狩祐志
東京国際アニメフェア2010シンポジウム「個人発アニメーションの15年史/相互越境による新たな視点」(企画)、「激変!アニメーション環境 平成30年史+1」(著書)など。