特集「コロナ以降のカルチャー テクノロジーはエンタメを救えるか」(Vol.6)

コロナ以降、リアルワールドゲームはどう変化する? Niantic日本法人・村井説人と考える

コロナ禍はNianticとプレイヤーにとって大きく進化した時期

ーーここまでの状況を踏まえ、コロナ以降の「リアルワールドゲーム」はどう変わっていくのかという点について、村井さんの考えをお聞かせください。

村井:明確に言えることは、我々としてやるべきことは全く変わらないということです。新型コロナウィルスの感染拡大に備えて議論を進めるなかで、先ほどお伝えしたように「我々のミッションは、いつの日かまた社会を明るくするために頑張っている皆様を支える強いサポートになるだろう」とチーム全体で信じているからです。新型コロナウィルスが収束したとしても、観光スポットであれば「なかなか人が戻ってこない」といったような逆境は依然続くと考えています。一方で、外に行くことへの欲求は次第に高まっていくでしょうから、その際に『Pokémon GO』や『Ingress』、『ハリーポッター:魔法同盟』のようなゲームが、お役に立てる日がくるんじゃないかと思います。なので、コロナ禍が終わった後だからこそ、我々のアプリやサービスの価値はより輝くのではないかと考えています。それに加え、家にいながらでもワクワクドキドキを体験できる新たなサービスも実装したわけですから、我々にとってもプレイヤーの皆さんにとっても、大きく進化した時期だったと言えるのかもしれません。

ーー外に出て従来通りのプレイをすることの価値が上がる、という意味では、サービスとしてやることは変わらないものの、ユーザー側の価値観はポジティブな方向へ大きく変わるような気がします。

村井:そうであってほしいです。ジョンが常日頃言っていることの一つに「新しい価値は、制限のある環境から生まれてくる。だから制限がないところで生まれてきたものは、持続可能な素晴らしいアイデアにはなりづらい」という言葉があるんです。今回は新型コロナウイルスという人類全てに課せられたある種の制限を受けて捻出したアイデアなわけです。これら変革は、皆さんや我々の未来にとって、価値のあるものとして残り続けるんだろうなという風に考えています。

ーー開発のロードマップについて、ARチームはほぼ変わっていないとのことでしたが、「ポケストップスキャン」や「プレイヤーがアップしたマップ情報の3Dデータ化」といった機能の開発が発表されたり、ARスタートアップの6D.aiを買収して、リアルワールドの3Dマップ化を推し進めるなど、未来への新たな動きも目立ちます。これらに関しても、アフターコロナの動きにつながってくるところはあるのでしょうか。

村井:常日頃から「NianticはAR(拡張現実)における世界のリーディングカンパニーになる」と言う強い決意を持って日々開発を進めています。ARテクノロジーを使って、今まで気づかなかったものに気付くきっかけを作ると共に、今までには無い、新しい体験を提供していきたいと考えています。Nianticが目指すは「さわれるインターネットです」。ただ、我々が目指す世界を実現するには、まだまだデータが必要です。プレイヤーの皆さんと力を合わせてこの世界をキャプチャーし、共に来たる新しい世界を創造することができるれば、こんなにうれしいことはありません。ARの世界を創造することで、人間の生活や文明がまた一つ高みに行く、そんな瞬間に皆さんと共に立ち会えたらうれしいです。

ーーそれは『Ingress』がスタートしたときから変わらない、Nianticのベーシックな方針の一つですよね。

村井:そうなんです。プレイヤーの皆さんと一緒に作り上げていくという考えは、いつもプレイヤーと共に歩みたいと思っているNianticならでは手法なのではないかと思っています。実は我々が提供している『Ingress』では、世界中のエージェント(Ingressプレイヤーの総称)と「POI(Point of Interest)のちにPokémon GOでジムやポケストップになる位置情報」を共に集めた経験があります。このPOIとは、誰かが「見るそして訪れる価値がある」と判断した場所のことで、歴史的価値のあるもの、芸術的な価値があるもの、見て和み、驚きがあるものなどなど、多種多様な場所データのことを言います。このデータは、いわゆる旅行雑誌に載っているものではなく、世界中の個人が個人的に興味を持ち、個人的に価値を感じているもので、他の人に一見の価値があるから一度訪れてほしいと思った場所がデータベースとなっています。このようなデータを世界規模で保持している会社は世界広しと言えどNianticだけだと自負しています。これらのある種UGC(User Generated Contents)的なデータは『Ingress』だけではなく『Pokémon GO』や『ハリーポッター:魔法同盟』にも活用されています。このプレイヤーと共に作っていくと言うアプローチの仕方はとても「Nianticらしい」のではないかと考えています。

ーー無機質な位置情報の集合体でなく、人の感情が乗った“有機的なデータ”を基に作られていることが、Nianticのらしさにもつながっているのですね。村井さんがインタビューでよくお話しされている「世界をゲームボードに見立てる」という考え方は、このコロナ禍における世界の変化を経て、ゲームの世界のなかでコミュニティを作ったり、交流したりと、メインの舞台がメタバース、いわゆる仮想空間に移ったところもあると思うんです。NianticのサービスはARを中心としていますが、この辺りの変化についてはどうお考えですか。

村井:メタバースやVR(仮想現実)の世界も今後色々と進化していくと考えています。一方で、我々がその世界をリードしていく存在になるかと言えばそれはありません。Nianticはとても現実世界を大切に考えています。今回のリモートレイド実装も、現実世界でのコミュニケーションをより活性化させるための一つのきっかけにできると考えています。今回は単に「家の中でできるようにした」というわけではなく「我々のサービスを通して、現実世界の他のプレイヤーとの接点を持つ時間が増えた」と考えていただけるとわかりやすいと思います。これまでは外出する際のお供として、みなさんに楽しんでもらえるゲームを作ってきたのですが、家の中でも楽しんでもらえる機能をリリースしたことで、サービスを楽しんでいただく時間が長くなったわけです。このつながりが、現実世界でのつながりを更に強固なものにする一助になってくれればこんなにうれしいことはありません。

ーーゲーム全体としては直接的な交流だけでなく間接的な交流も含めて、「ソーシャル(人と人との繋がり)の価値」がより高まっているように感じます。Nianticのゲームにおいては、それらの状況を踏まえて、よりソーシャルな機能を盛り込んでいく予定はあるのでしょうか。

村井: ソーシャルであることは、とても重要だとNianticは考えています。人間は生活を営んでいくうえで、人と繋がることで強くなり、そして優しくなれます。また活力を得ることができたり、活力を与えたりすることもできます。Nianticは、今まで以上に人と人との交流を深めることができる機能を提供していきたいと思っています。限られた人同士ではなく、国境や時間など様々な制約を超えて繋がれるような、そんな機能をNianticは現在も開発しています。今後のサービスにどうぞご期待ください。

ーー今後の話でいえば、以前から進めている「Niantic Creator Program」や「Niantic Real World Platform」、今後設立を予定している「Beyond Reality Fund」など、会社単体というより社会課題に対する取り組みも前進していくのでしょうか。

村井:そうですね。Nianticは、ARプラットフォームを開発して、そのプラットフォームを皆さんに提供していくというビジョンを持っています。一方で、この拡張現実の世界を我々一社で作り上げていくのには限界があるとも考えています。人の生活をより良くしていく為に、より多くのパートナーと共に前進していきたいと考えています。世界をより良くしていく連合体のようなものができると嬉しいです。これらのプロジェクトについても、近いうちに何かしらのお披露目できるかもしれません。

ーーコロナ以前、コロナ禍、コロナ以降とそれぞれについて話を聞いてきましたが、収束に向かうまでのロードマップにおいて、リアルイベントはいつごろ再開できそうかなど、現時点での見通しを教えてください。

村井:人と人が交流を深める、そんな機会を大切にしているNianticにとって、リアルワールドイベントはとても重要な意味を持っています。新型コロナウイルスが猛威をふるっている中、どのようにしたら、我々の提供すべき価値と、プレイヤーの皆さんの安全を、両立することができるか、日々検討を重ねてきました。結論として、今まで一年に一度、特定の国・都市で開催していたPokémon GOの『GO Fest』を、今年は7月25日と26日にオンラインで世界同時に開催することを決定しました。今までは特定の場所で行ってきたことによって、イベントに参加できない方たちもいましたが、今回は世界中のプレイヤーが参加することができるようになりました。これはこのような厳しい環境がなければ生まれなかったアイディアだと思います。是非世界中のプレイヤーの皆さんに楽しんでいただけると嬉しく思っています。そして近い将来またリアルワールドイベントでお会いできることを楽しみにしています。

 ここまでお話ししたこと全てに共通するのですが、Nianticとしては見定めている目標は変えることなく、しかし頭は柔らかくして、今だからこそできることに集中しながら、この制限下において様々なことを、新しく変えていきたいと思っています。そのためにもプレイヤー皆さんの力をお借りして、力を合わせて来たるべき新しい世界を実現するために頑張っていきたいですね。

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