『MAKING OF BEASTARS』から考える、CGアニメにおける“表現”のあり方

CGの方が"演出"している気になる

 上述の演出を担当した湯川氏と下司氏は手描きアニメも手掛けているが、CG主体のアニメ製作に関して、こんなことを本書の中で語っている。

下司「一つあるのは、CGアニメの方が"演出"してるなという気になったということです。今の手描きアニメは直すことが主体となっていて、ああしたい、こうしたいと言う以前にまずこの素材をどう直すかということをやらなければならなくて、ほとんどそれだけで終わってしまうんです。それに対して、今回は演技や表情などの話を詰めていって、あとは撮影で画面処理をどうするといった話ができたので、その意味では本来の演出がちょっとはできたかなと思いました」

 例えばキャラクターの芝居において、上述したような表情の繊細な変化を作れるようになった他、細かな動作も実に巧みに加えられている。9話のハルが怒って露店から出てくるシーンでは心情を手の動きによって繊細に表現。動物の長い耳や尻尾など、動物独自の器官の動きで嬉しさなどを表現する細かい動きを、CGによって巧みにつけている。

 また、本作は声の芝居を先に収録するプレスコを採用している。松見監督は「日常芝居もアクションシーンも声を聴きながら作れるので、作画ほど絵の芝居にバラツキが出ず、CGにはプレスコが向いている」と言う。(P12)

 プレスコのメリットは声優の演技にも表れており、松見監督は今回、身体を動かしながら喋ってもらうスタイルを採用し、声だけでキャラクターを作るのではなく「芝居」を作り込むことを意識したそうだ。

「身体を動かすと、やっぱり全然違うんです。一番大きいのは相手を見られるので、その表情を見ながら演技ができるということです。身体全体で演ずると、声も変わってくるんです」(P242)

 フェイシャルキャプチャを担当したCGリードアーティスト・都田崇之氏は声優のプレスコ時の声の芝居が「"演技に乗ったもの"であったため、モーションキャプチャもフェイシャルキャプチャもその目に見えない"演技"が指針(P76)」になったと語る。プレスコ収録が声の芝居だけでなく、絵の芝居の方にも良い効果をもたらしたと言えそうだ。

作画の代わりじゃないCGの表現を追求

 オレンジ代表の井野元氏は、「単に作画をCGに置き換えた作品ではなく、3DCGの技術を使ったらこういう表現も可能になりました(P249)」という作品を作るのが目標だと語る。

 そして本作は、その方向性を強く感じさせるものだった。フォトリアルな海外製のCG作品とも、従来の手描きの日本アニメとも異なる自然さを創り上げることに成功した作品と言えるのではないだろうか。2021年にはTVシリーズ2期の放送も予定されている。どんな洗練された作品になるのか楽しみだ。

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。

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