「人の外見について攻撃する」を減らすためにーー整形アイドル轟ちゃんに聞く“時代の空気”との戦い方

 「整形」という言葉の持つインパクトが、以前に比べてマイルドになってきた。そうした社会全体に漂う“空気の変化”には、必ずキズだらけの開拓者がいるものだ。偏った見方や誤解を解くために、世間の逆風を受けながらも懸命に言葉を発信し続ける。「整形アイドル轟ちゃん」という人は、まさにそんな開拓者である。

 轟ちゃんがYouTubeで、整形手術直後の(腫れやアザが引くまでの)ダウンタイムの様子を動画で投稿し始めたのが2016年のこと。その痛々しい姿に、整形手術が決して「魔法」ではないことを教えてくれた。生きることさえ手放したくなるほど、外見に悩んでいた日々。そして自分を受け入れることができるようになるまでの軌跡を綴った著書『可愛い戦争から離脱します』(幻冬舎)は、外見にコンプレックスを持つ全ての人の心を温める。

 YouTubeに加えて、最近ではテレビ出演なども果たし、マルチに活躍する轟ちゃん。「本を出す」という夢を叶えて見えた景色、そしてこれから実現していきたい新たな夢について聞いた。(佐藤結衣)

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「“可愛い”って同じ単語でも、それぞれ持っている意味が違うから」

ーー『可愛い戦争から離脱します』の発売から数ヶ月。周囲からどんな反響が届いていますか?

轟ちゃん:発売してすぐにファンの方からサイン会など直接感想をいただける機会もあって、すごく嬉しかったですね。それから徐々に同業者というか美容系のインフルエンサーと呼ばれる方々から「私も可愛い戦争に揉まれてます」とか「共感しました」というメッセージが届いて。私からしたら「え? あなた顔で悩むことあるんですか?」と思っていた方たちばかりなんですが、実は「コンプレックスがあって、ずっと苦しんでた」「可愛いについての本、整形についての本だと思って読み始めたら、もっと広い話で、人生全般につながる話で共感できた」とも。本になることでいろんな立場の方に伝わったんだって実感しました。

――実はこの本を読んでいて、「あれ? 可愛いってなんだっけ?」みたいな感覚になりました。

轟ちゃん:そうなんですよ。もう概念から、考え始めちゃいますよね、「可愛いとは?」って(笑)。私、よくメイク動画とかで「人中(鼻の下から上唇にかけての筋)が長い顔が好き」って言ってるんです。すると「ありえない」っていうコメントもいただくんですよね。私の中の“可愛い”と、他の人にとっての“可愛い”ってこんなに違うんだって。「可愛いってなんだろう」「っていうか、生きるってなんだろう」みたいな感じで、すごく本を書きながら哲学的な思考になっていきました。

――人によって異なる“可愛い”に翻弄されず、自分自身を愛する方法を探る本だなと感じました。他者とぶつかるのではなく、自分の中の和解策を見つけるみたいな。

轟ちゃん:そうです。同じ単語だけど、それぞれ持っている意味が違う。それは多様でいいんじゃないかなってところに収束していきました。自分の苦しい思いだけを吐き出すことで終わらないように、汚い部分をどんどん引き剥がして、キレイな言葉にして、みんなにスッと伝わる言葉にしようって……。だから終わったときには、ポロンみたいな。むき卵みたいな感じになりました(笑)。

――ある種のデトックスになったのでしょうか?

轟ちゃん:はい。ツヤッて(笑)。「……終わった」みたいな。本当にチャプター1で過去のことを書いていたときは、すごく辛かったですね。でも、文字にすることで救われていく感じがありました。

「人によく見られたいじゃなく、自分自身を幸せにするためのライフハック」

――整形もそうですが、メイドカフェでのアルバイトや声優養成所への入学、YouTubeを始めるにしても決断力がありますよね。

轟ちゃん:「やりたい」と思ったらいてもたってもいられない性格なんです。もともと好奇心は旺盛なほうで「声優になりたい! じゃあ、養成所に行かなきゃ! パソコンで検索!」って感じで。何かを変えるには動くしかないって気持ちが強いんですよね。前向きな方向にそれが発揮されるときはいいんですが、夜中でも「食べたい」とか、仕事中なのに「遊びたい」とか、悪い方向にも出そうになることも……。でも、良くも悪くもそれが自分の個性だって最近は思えるようになりました。

――何か始めたいけれど、なかなか踏み出せないという人も多くいるなかで、轟ちゃんの行動力の源は何だったと思いますか。

轟ちゃん:やっぱり1回どん底に入ってるから、もうそれ以下はないって思えたのが強かったかも知れませんね。借金もあったし、整形地獄って感じで、行き着くところまでいったから、バーンって跳ね返った感じがあります。でも、みんながどん底まで追い込まれる必要はないと思うので、どれだけその「やりたい」に素直になれるかじゃないかなって思います。みんな真面目なんですよね。周りから言われた言葉とか、“こんなこと言われるんじゃないかな”ってことを全部受け止めちゃう。だから動き出せなくなっちゃうんだと思います。

――それを壊すのが大変ですよね。

轟ちゃん:だから、「離脱してもいいんじゃない?」と声をかけたかったんですよね。「逃げる」じゃなくて「離脱」。今「こうじゃなきゃいけない」って思ってることって、実はたくさんある考え方のひとつでしかなくて。私も昔を振り返ると、ひとつしか見えなくなっちゃってた時期があったんで。自分を活かす道って他にもあるし、自分を元気になる方向にパワーを使っていいんだよって。実際人生の道ってすごくたくさんあるから、そこに気づいてほしいなっていう思いがありました。

――「ちょっと贅沢な時間を作る」という章もありましたね。

轟ちゃん:はい、あれ本当にオススメなんですよ。ペットボトルを直接飲んだらいいじゃんとか言われるけど、お気に入りのグラスに、氷を浮かべて、注ぐだけでも、自分を大事にできてるなって思えて楽しいよって。ライフハックじゃないですけど、そういう日々の提案も入れました。正直、花を飾るとかキレイなグラスって、なくても肉体は生きてはいけるものなんですけど、自分の心を生かすのにはすごく効果があって。

――一方で、その「丁寧な暮らし」が記号化されて、「SNSで発信しない!」とみたいな風潮もあるなと思ったり。

轟ちゃん:ありますね。私自身もルームツアー動画でグチャグチャな部屋は見せられないなって思いますし(笑)。大事なのは「人によく見られたい」ではなくて、「自分を大事にしたい」という着地点じゃないでしょうか。自分自身の充実を、他人からの承認にすり替わってしまわないように注意すること。自分の人生を幸せにしているのが自分であることを、忘れないことだと思います。

――確かに、“目的”と“手段”が見失うのは満たされない原因にもなりますよね。

轟ちゃん:自分っていうのがあって、他人との関わりがあるというのもそうで……。よく脳内でイメージするんですが、私というホームがあって、他の人との関わりというエリアに出兵するような気持ちなんですよね。そこでは“自分はこんなふうに見られたい”っていう多少の見栄もはりますし、背伸びして頑張るんですが、そこにいる時間を一番長くならないようにしたいと思っていて。そのエリアはあくまでも、自分の人生のプラスアルファ。大事なのは、自分というホームだと。そのいわばアウェーのエリアで「ブス」とか外見を評価される言葉に傷ついたり、疲れてしまうことがあっても、ホームがブレなければ自分を見失わずに住むんじゃないかなって思っています。

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