映像ストリーミングに浮上した新時代の「クレジット問題」 映像クリエイターからも批難の声

 劇場やテレビ放送などでは、クレジットのスキップは一般的に不可能だった。中には、地上波の映画やドラマなどで、エンドクレジット中に別の番組の宣伝が入る場面を目にする人も多いはずだろう。とはいえ、映画やドラマにはオープニングとエンディングがあり、クレジットが入ることを当たり前と思っている人が大多数だろう。『スター・ウォーズ』や『ゲーム・オブ・スローンズ』の強烈なオープニングに感情移入する人も多いはずだろうし、『ウェストワールド』のように圧倒的な映像美あるクレジットには目を奪われることもある。

 しかしストリーミングでコンテンツを見る場合、視聴者個人の好みが優先される。オープニングやエンドクレジットに特別な映像やタイアップの音楽を付けても、特別な愛着がなければ、または時間が惜しければ、スキップされてしまうこともあるのが現状だろう。そして、オープニングやエンディングをスキップし続ける人は、クレジットを映像作品の枝葉末節として捉える見方がさらに強まるかもしれない。クレジットを表示してほしいと考える映像クリエイターの想いと、番組を1秒でも早く進ませたいとするプラットフォームの戦略との溝を埋めるには深い議論が必要だろう。

 クレジット表記は映像だけでなく、音楽ストリーミングでも議論されている。例えばSpotifyは2018年に楽曲毎にプロデューサーや作曲家などのクレジット表記を追加した。だがPitchforkは、Spotifyのクレジット・データベースには”漏れ”があり、またカバーバージョンでは原曲のプロデューサーがクレジットされていないと問題点も指摘するように、膨大に増え続けるリスナーとアーティスト、クリエイターの満足度を満たすまでの道のりは長いと感じる。

参照:https://pitchfork.com/thepitch/dont-give-spotify-too-much-credit-for-adding-credits/

 アメリカの映像産業では、WGA(全米脚本家協会)やPGA(全米製作者組合)、SAG-AFTRA(全米映画俳優・テレビ・ラジオ芸能人労働組合)など業界で働く人の権利を保護する労働組合がそれぞれクレジット表記についてのガイドラインを公開している。だが、それをどう表示するかはプラットフォームの仕様によって変わる可能性が高い。

参照:https://www.wga.org/contracts/credits/manuals/theatrical-credits-procedures#f

 「エンドクレジットを遮らない局やサービスと仕事がしたい」前述のボブ・ワクスバーグはTwitterでこうも述べた。NetflixやAmazonプライム・ビデオなど映像ストリーミングは、無名の俳優や監督、脚本家でも参加できるクリエイター・ファーストなクリエイティブ環境を提供することでは定評があり、これらの企業を称賛するクリエイターたちも少なくない。そのクリエイター・ファーストな考え方をどこまで広げて、作り手とプラットフォームとが相互関係や契約条件を構築できるかは、今後の映像産業やクリエイターたちが注目すべき部分だろう。もしかしたら制作配信する契約にスキップボタンを外すことを条件にするクリエイターが現れてもおかしくない。

■ジェイ・コウガミ(デジタル音楽ジャーナリスト、All Digital Music
デジタル音楽ジャーナリスト。音楽ブログ「All Digital Music」編集長。「世界のデジタル音楽」をテーマに、日本のメディアでは紹介されないサービスやテクノロジー、ビジネス、最新トレンドを幅広く分析し紹介する。オンラインメディアや経済誌での寄稿のほか、テレビ、ラジオなどで活動する。
Twitter
Facebook

関連記事