世界的天才コーダー、アイドリス・サンドゥが語る「テクノロジーを駆使する“文化のアーキテクト”」の使命とその先

世界的天才コーダーが考える「文化のアーキテクト」

 そんな彼が文化をアーキテクトする上で大切だと考えているのは、「共感性、ユーザーエクスペリエンス、デジタル・アルケミズム、空間性、多様性」の5つ。彼曰く、最近の”Z世代”と呼ばれる若者たちは、ネットカルチャーが存在する限り、どんなものでも大量生産可能だと考えている節があるそうで、現代のようにカルチャー、テクノロジーがありふれた社会を良い方向に変えていくためにはそういった5つの要素が必要になってくるという。特にテクノロジーは万物の利便性を高める反面、善にも悪にも使える諸刃の剣と言えるものだ。それ故に「テクノロジーはあくまでツール」と捉えて使いこなすことが肝心だと彼は考える。

 また、テクノロジーをツールと捉える考え方には、以前、読んだ日本文化についての本にあった、日本特有の”道具”の捉え方に影響を受けているそうで、自身のルーツであるアフリカ文化と日本文化は「何かを生み出す時に共感性を大事にしようとするところが共通している」と語った。それに関連して「Z世代が何かを作る時に考えるのは“新しいクリエイションにどんな風に人が共感するか”ということだ」という意見も、非Z世代である自分からすると興味深いものだった。

 それ以外にも「クリエイターはあくまでユーザーに役立つものを作ってそれを観察することが大事」、「新しいテクノロジーは必ずしも大企業から生まれる必要はない」という考えの実践の場として作られたNipsey HussleとのARなどテクロジーを詰め込んだスマートスマートショップ、文化的な価値観をどうやってデザインに組み込むかなどクリエイションに対するこだわりなどが語られた。

 そういった中で特に興味深い議論が展開されたのは、昨今、テック業界のみならず、社会的な関心事として日本でも注目されるダイバーシティの問題だ。これについて、「ダイバーシティの話は世界のどこに自分がいるかで意味が変わる」と語るアイドリス。人種、セクシャリティなど様々な観点でのダイバーシティが存在するが、「今後は社会問題を解決するために様々な意味での多様性を重視する必要がある」と語った。加えて、クリエイターは全ての人々のために平等な何かをクリエイトする必要があると提言。こういったダイバーシティに向き合う姿勢を示さないビジネスは今後は、確実に売上にも悪影響を及ぼすという見方を示し、これからのテックカルチャーが”多様性”を重視する必要性を説いた。

 また、トークショーの後半では参加者の質疑応答も。そちらでは、先ほどのダイバーシティの問題により踏み込んだ発言があり、「現状、男性社会になってしまっているテック業界は、今後はもっと女性が活躍する場を増やし、彼女たち特有の柔軟さも取り入れていくべき。今後のテクノロジーの発展にはフェミニンな感性をもっと男性社会のテック業界が生み出すデジタル環境に反映させる必要がある」と業界に向けて提言。彼自身はテクノロジーは人工的なものであり、人の感情をそこに入れてはならないという業界の見方がある中で、人間的な感情をそこに加えることに取り組んでおり、男性性のほかに、先述のような要素をもとめて、自分の中の女性性も盛り込もうとしているという。

 そのほかにも、時にテック業界がカルチャーを理解していないと言われる理由として、「業界はデータしか重視せず、物事のある側面しかみない。コミニュニティと交流して物事を進めていく必要性を理解してない。データのみを通して、人間を理解しようとすると物事の見方が偏る」と業界の問題についても触れつつ、テクノロジーと人間が向き合うことの大切さも力説した。

 最後に”テクノロジー”というと難解なイメージを持つが、実際に我々は普段からそういったものを利用していることの例として、電子レンジを挙げ、テクノロジーは何もプログラマーのみが扱えるものではないと会場にわかり易く示す一方、それ故に参加者には「テクノロジーがわからないとは言って欲しくない」と求める場面も。

 さらに「自分は世界一のプログラマーではないが、今の時代はひとつのことに20年程、専念してきただけで“専門家”と言えるとは思わない。これからの時代は肩書きで何をするような時代ではなく、”これはできる、あれはできる”を組み合わせて100%を目指す、”広く浅く関わっていく”でも問題はない」とZ世代らしい新しい価値観をベースにした自分なりのキャリア形成論を語った。

 若くして、数々のテック・ジャイアントとの仕事を重ねる天才で、物心ついた頃からテクノロジーに慣れしたんで来たZ世代を象徴する存在というイメージがあったアイドリス。今回のトークショーでは独特の感性故の考えに触れることがあった一方で、アプローチの仕方は違えど、テクノロジーの進歩発展おいてはどこまでいっても”人間”がキーワードになっているとこれまでの世代と同様に彼ら世代もまた捉えていることがわかった。

 人間が使いこなすことがきるもの、しかも人間にとって善い方向に作用する形で利用できるものであること。それこそが今後、我々がデザインし、プロダクトとして生み出す”テクノロジー”のあるべき姿なのだろう。そんなことを考えさせられたトークショーだった。

(取材・文=Jun Fukunaga/撮影=yuichi yamazaki)

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