黒田隆憲の「アーティストが愛する音楽機材」

DATSやyahyelなどのドラマー・大井一彌が語る、“出来ないことを捨てて得意なことを極める”重要性

「ドラムセットは最新のもの、スネアはめっちゃ古いやつ」

ーー今回、機材リストも見たのですが、基本のドラムセットはTAMAのSTAR Walnutですよね。

大井:そうです。ちょっとハイピッチで“抜け”の良いタイトなドラムサウンドが好きなので、このセットを愛用しています。スネアはオカモトレイジ(OKAMOTO'S)さんから借りているPremierのRoyal Ace 4が、最近はお気に入りです。本当にいい音なんですよ。ビンテージ機材主義の人っているじゃないですか。僕も高校生の頃はThe BeatlesやThe Whoなどを聴いて育ったので、そういうところがあったし、逆に「新しければ新しいほどいい」と思い込んでいた時期もあったんですけど(笑)、それを経て「ドラムセットは最新のもの、スネアはめっちゃ古いやつ」っていう感じになっていますね。

 キックはトリガーを挿してローエンドを足すにしても、さっきも言ったように生キックの存在感はきちっと出したい。そういう意味でもキットは最新にしています。ウォルナット(くるみ)はかなりローがしっかり出るんですよ。金モノはまだ特に定まっていなくて。僕はジャンクとかすごく好きで、ハードオフとか行って買うこともあるんです。そういうガラクタのようなパーツを組み合わせて楽器を作る、みたいな感じがすんごい好きなので(笑)。

「ジャンク漁りをするマインドからは、一生抜け出せない」

ーーその発想がすでにヒップホップっぽいですよね(笑)。

大井:確かに。ブランドもよくわからないような、割れたスプラッシュシンバルを買ってきて。それを手持ちのシンバルと重ねて、ちょっとRoland TR-909のハットっぽいオリジナルなサウンドを作ったりしています。そういう実験を、子どもの頃から楽しみつつ、今に至るという。ジャンク漁りをするマインドからは、一生抜け出せないでしょうね(笑)。

ーーエレクトリック楽器については?

大井:RolandのSPD-SXやTM-2をメインで使っています。最近はRoland TM-6 PROも気に入っていますね。歴代のRolandの名機から直接サンプリングした音色がプリセットされていて、クオリティが格段に向上しているんですよ。ハイブリッドをやり始めた頃は、プリセット音源をそのまま使っていたんですけど、 DTMをするようになってからは自分で好みの音色を作り込むようになりました。“Splice Sounds”という、サンプル音源をダウンロードできる便利なサイトがあって、他にも広大なインターネットの海を徘徊しつつ(笑)、拾ってきたサンプル音源を編集したり、組み合わせたりしながらオリジナルな音色を作っています。それは「ドラムプレイヤー」というよりかは、「トラックメイカー」としての脳を使って行う作業といえますね。ちなみにDAWソフトはAbleton Live9を使っています。

ーードラムセッティングや、リズムパターンを考えるとき、どんなところからインスパイアされることが多いですか?

大井:僕のドラムセット自体、純粋なドラムセットというよりは、かなりパーカッシブな考え方が多いので、ドラマーだけでなくパーカッショニストのセッティングが気になることも多いんですよね。そういうところからインスパイアされたアイデアを、自分のセッティングに落とし込んでいます。あと、トラックメイカーの作るリズムパターンにインスパイアされることは多いですね。ドラマーには考えられない、物理的に叩けないようなパターンを作るので、そこが面白いんですよ。

「全く同列で並んだいくつかの選択肢を選ぶ時代になった」

ーーこれからドラマーを目指す人にアドバイスするとしたら、どんな言葉をかけますか?

大井:もし「ドラマーとしてやっていこう」と今から思っているのであれば、逆にドラム以外のパートに対してどのくらい意識が向いているかが重要になってくる気がします。今、レコーディングでドラムセットを必要とする現場はどんどん少なくなってきていると思うんですよ。だからといって、卑屈になる必要ないんですけど、2010年以降またトリガーとかが流行り、一時期は「ドラマーって斜陽産業なのでは?」と落ち込むこともありました。僕が好きな音楽に、そもそもドラムが入っていないことも多いし、僕の興味がドラム以外に向いているような気がしなくもないし。

ーーそうだったんですね。

大井:でも、そこからさらに音楽業界も僕の耳も、段階を一つ越えたような気がしていて。ドラムセットというものが、ビートを形成する上での手段の一つになったというか。TR-808を使うか、生ドラムを使うか、違うサンプルを使って打ち込むか。そういういくつかの選択肢が全く同列で並んで、選ぶ時代になった。だったらどの選択肢が選ばれても、自分はできるようにしておこうと(笑)。DTMもやるし、生ドラムも叩きますというスタイルにしているんですよね。

 それも結局は、相対的に自分の立ち位置を探していくことなのかなと思います。生ドラマーとして生きていくのであれば、余計に「生ドラマー以外の部分でどういうことが出来るか?」を考えることが、逆説的にドラマーとしての立ち位置が決まるというか。そうやって試行錯誤することそのものを、面白がっていけたらいいですよね。

(取材・文=黒田隆憲/写真=三橋優美子)

■大井一彌
DATS、yahyel、LADBREAKSのドラム。DAOKOや踊Foot Worksなどでセッションドラマーとしても活躍中。Twitter:@OiOiiiOiOOi

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