『Talk About Virtual Talent』第一回:kz(livetune)

kz(livetune)が考える、VTuber文化ならではの魅力「僕らが10年かけたことを、わずか2年でやってる」

「Virtual to LIVE」の〈どうしようもなく/今を生きてる〉に込めた思い

――kzさんはVTuberのみなさんに作家として楽曲提供をしています。VTuberの音楽活動の魅力についてはどんなふうに感じていますか?

kz:やっぱり、言葉ではなく歌詞にすると、何かしらの凝縮が生まれて言いたいことが伝わりやすくなる部分があると思うので、その魅力を一般の人たちにも広く伝える方法のひとつとして、音楽があるのかな、と思います。厳密にどうこうと言うわけではないんですけど、僕はVの音楽にもいくつか種類があると思っていて、完全な「キャラソン」と、それとは似て非なる「イメージソング」と、本人が好きな音楽やアニメを意識したものと、クリエイター自体がVであるもの……というふうに、いくつかのタイプに分かれていると思うんです。

 中でも、「キャラソン」はキャラクターと乖離しないので、動画勢の人たちに合っていますよね。ヒゲさん(ヒゲドライバー)が作詞作曲したシロちゃんの「叩ケ 叩ケ 手ェ叩ケ」のような楽曲は、名言集やその人が言いそうなことをまとめたキャラソンの構造だと思いますし、田中秀和くんや畑亜貴さんたちがかかわったアズリム(アズマリム)さんの「人類みなセンパイ!」もそうですよね。

 そういう意味でいうと、特殊なのはにじさんじだと思っていて。にじさんじの場合、ファンの方々がつくったイメージソングを公式が取り入れる構造がありますけど、あれって「僕らが考える笑い男」の具現化で、Vにしかないカルチャーだと思うんです。イメージソングは、その人たちが活動してきた中での時間の切り取りや配信で言った思想のような細かいディテールをさらに掘り下げていくもので、本来シンガーソングライターがやるようなことを、本人とは違う他者がやるという構造がすごく独特だと思います。僕の中では、それに類するものがなかなか他に見当たらない。

――なるほど。いわゆるファンアート的な形で、そういう音楽が生まれてくる、と。

kz:それこそ樋口さんの曲にはそういうものが多いですけど、僕らが考える樋口さん像って、きっと何となく一致していますよね。でも、それが本当にご本人と一致しているのかどうかは、僕らには分からない。しかも、それを樋口さん本人が自分の曲として歌うという謎の揺らぎが生まれていて、「樋口さんってこうだよな」という通奏低音が、一連のイメージソングからも生まれた部分はとても大きいと思うんです。その不思議な感覚って、Vの音楽ならではの独特なものだと思います。

――実際にkzさんがVTuberの方々に楽曲提供する中では、どんなことを感じていますか。

kz:僕がこれまでVTuberの方に楽曲提供したのは4曲ですけど、キズナアイさんの「Precious Piece」(『LAIDBACKERS-レイドバッカーズ-』主題歌)とYuNiさんの「Destination」(『LAIDBACKERS-レイドバッカーズ-』挿入歌)の2曲は作品とのタイアップで生まれた曲なので、Vの世界観を保ちつつも、作品とクロスオーバーする部分はどこだろうと探っていく作業で、純然たるV曲とは違うと思っていて。

 YuNiさんの「Write My Voice」に関しても、YUC’eが最初につくった「透明声彩」をもとに、アルバム『clear / CoLoR』のタイミングで時間を経てどう変わったのかを表現した楽曲なので、僕の中ではどちらかというと「透明声彩」の二次創作に近いものでした。そう考えると、僕がゼロからつくったVの曲は、今のところ、にじさんじの一周年記念曲「Virtual to LIVE」だけなんです。この曲でバーチャルっぽさを出していないのは、今までの話にもあった通り、僕が「VTuberって何なんだろう?」と考えると、結局は「人間ってどこまでも人間だな」という感想に行きつくからで。それをどう表現しようかと考えた結果、「Virtual to LIVE」という曲ができました。

――この曲をつくっていったときのことを、詳しく思い出してもらえますか。

kz:最初に歌い出しの〈どうしようもなく/今を生きてる〉というフレーズが出てきました。むしろこの曲は、その言葉がありきで生まれた曲で、「(ライバーとして)今を生きている」「じゃあ、どんなふうに今を生きているのか?」と考えると、色んな動きの制限や制約がありつつも、でも「どうしようもなく今を生きてる」んじゃないかな、と思いました。この曲は僕なりのにじさんじへのファンアートなので、歌詞で書かれていることも僕の勝手な押し付けというか、「こうあってほしい」という願望なんです。僕がにじさんじを見はじめたのは2018年の3月頃ですけど、最初の頃のにじさんじって、今とは違う泥臭さがあったというか。それが、今では幕張メッセや両国国技館でライブをするようになっていて。だからこそ、初期から見続けていた人ならきっと分かってくれることを書いた、公式でやらせていただいた僕なりのファンアートでした。

――月ノ美兎さんのイメージソング「Moon!!」のメロディが、最後のコーラス部分に引用されていて、最初にこの部分を聴いたとき、感極まってしまった人は多かったと思います。

kz:もともと、にじさんじのイメージソングというカルチャーが生まれたきっかけがiruさんの「Moon!!」だったと思うので、曲をつくっているときに、「これが最後にあったら、自分自身も一番嬉しいな」と思ったんです。それで、iruさんも含むイメージソングをつくっている人たちに「曲の終わりに『Moon!!』を引用するのって、どう思いますか?」と聞いてみたら、iruさんも「それは最高!」と言ってくれて。「Moon!!」自体は、構造としてはキャラクターソングに近い楽曲でしたけど、あの曲が第一歩を踏み出してくれたことで、にじさんじの「ファンアートとしての音楽」が広がっていきました。アマチュアの人たちがファンアートとしてつくった曲で大会場でライブをする人たちというのは、他にはなかなか存在しないと思うので、僕としては、当時、それを見ていてすごく嬉しかったんです。僕自身がアマチュアからインターネットを通して出てきた人間なので、ウェルメイドなものよりも、どことなく手作り感があるものに惹かれるところもあるんだと思います。

――プロの方々にしかできないことがある一方で、ファンアートとしての音楽にも、熱意の塊を思いきり詰め込んでいくような、その形でしか生まれない魅力がありますよね。

kz:そうなんですよね。僕らもプロフェッショナルとして、お仕事としてオファーいただいたものにはもちろん全力で向き合っているんですけど、だからといって「全力でやる」ことと、「感情を乗せる」ことって、実はちょっと違うと思うんです。僕らはプロとしてクオリティは担保できるけれども、それとはまた違う「何だかよくわからないけれどすごいもの」って、結局は強い感情が詰まったものでないと、実現することは難しいんじゃないかと思っていて。イメージソングをつくっている人たちは、本当に熱量が異次元に高いので……!

――(笑)。「Virtual to LIVE」は、ろくんしさんが手掛けた、ファンの方々による膨大なファンアートをちりばめたMVも感動的でした。

kz:あれを観て泣いた方は多いんじゃないかと思います(笑)。MVの企画自体は、楽曲の打ち合わせをしているときに、「せっかくなので、ファンアートを募集するのはどうでしょう?」と(にじさんじを運営する)いちからさんが提案してくださったのがはじまりでした。やっぱり、にじさんじの物語というのは、ライバーご本人はもちろんのこと、リスナーの人たちも含めたみんなでつくってきたものでもあると思うので、それがMVでも可能なら、僕としても「すごく嬉しいな」と。

 僕の中では、「Virtual to LIVE」の歌詞に出てくる〈君〉と〈僕〉は、ライバー同士のことであると同時に、ライバーと視聴者の関係性でもあると思っていて。僕がリスナーとライバーの相互作用という意味で一番面白さを感じたのがにじさんじだったので、楽曲ではそんな人たちならではの魅力を表現したいと思っていましたし、MVでもそれを視覚的に表現してもらえたのは、とても嬉しいことでした。

――にじさんじの一周年を記念した楽曲だからこそ、ライバーのみなさんとファンのみなさんが手を取り合う形になっていることは、とても大切なことだったんですね。

kz:しかも、それを上手く扱えるのは、やはりプロとして活動している方というよりも、技術を補ってあまりある文脈の理解度を持った「にじさんじが好きな人」だと思うんです。そういう意味でも、あの映像をつくれるのは、専門学校生だろうとろくんしさんしかいなかった。1番のサビで、今はもう活動をしていない名伽尾アズマさんの絵を合わせてくれるのはろくんしさんならではですし、海夜叉神さんや名伽尾アズマさん、闇夜乃モルルさんといった引退されてしまった方々や(配信頻度が極端に少ない)語部紡さんをスポットが当たりやすい場所に配置しているのって、きっと意図的なことだと思うんです。

 他にも、たとえばド葛本社(ドーラ、葛葉、本間ひまわり、社築)とド葛本社オルタ(鷹宮リオン、緑仙、名伽尾アズマ、ジョー・力一、でびでび・でびる、花畑チャイカ)のファンアートが並んでいたりと、ファンであればあるほど楽しめるものになっていて。元一期生の初ツイートを裏返しにして忍ばせる演出も、ほんとうに見てる人じゃないと作れない作品だったと思います。

――まさに公式の形を借りたファンアートならではの熱量ですよね。ろくんしさんのにじさんじへの思いが形になっていると言いますか。

kz:そうですよね。それに対して、委員長をはじめとするライバーの方々も喜んでくれていたと思うので、それも含めて「よかったな」という感覚でした。

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