「やりがい搾取のマネタイズはもう難しい」民族ハッピー組&運営が語る“ホワイトなアイドル”の裏側

民族ハッピー組が語る“ホワイトなアイドル運営”

 日本のソウルミュージックである演歌を世界に広めるべく活動しているグループ・民族ハッピー組。彼女たちは立ち上げの経緯や、「利益の70%を本人に渡す」という運営方針など、少々他のグループとは違った活動形態を取っていることが特徴的だ。

 今回は、そんな民族ハッピー組がブロックチェーン技術も採用した次世代SNS「FiNANCiE」に参加していることから、彼女たちとマネージャーの大石一尋氏をインタビュー。グループ立ち上げの経緯から、芸能界への提言、FiNANCiEの活用法など、“仕事とお金”についてじっくりと話を聞いた。(編集部)

「一番利益を受け取るべき本人たちが、末端になっている」

マネージャーの大石一尋氏

ーー「松浦設備工業株式会社」という事務所名も含め、マネージャー兼事務所社長の大石さんがいかにしてこのグループを立ち上げるに至ったか、という点がまず気になりました。

大石:私は21歳から30歳まで、ずっとイタリアのローマで音楽の勉強をしていたんです。その時に、日本発の音楽ジャンルって海外にはなかなか出てこないな、と感じることが多くて。その頃から、いつか自分がその役割を担えたらと思っていました。日本に帰ってきて自分も歌う機会があり、しばらく歌っているなかで某レコード会社の方と知り合って。そこで、レコーディングする際のボーカルディレクターを始めました。その時期がちょうどCDの販売枚数がどんどん下がっていくタイミングで。仕事をしながら「変わらないもの」はなんなんだろう、と考えてばかりでしたね。

ーーそこで大石さんがたどり着いた「変わらないもの」とは?

大石:音楽を聴く媒体は時代によって変わっていくけれど、どの時代も「アーティストの価値」は変わらないんだなと。だから、レーベルではなくマネジメント会社を立ち上げたんです。初めの5年間はディレクターの仕事や、ラジオ番組の制作などを行なっていたんですが、会社がだんだん安定してきた中で、「何でもいいんで、150万だけを使って月150万円生み出せるビジネスを一回考えてみてください」と言われまして。最初は僕がやっていたラジオ制作の仕事関係で、全く有名じゃない和牛を集めて紹介する番組とECサイトを立ち上げようとしたんですが、当時ECサイトはハードルが高くて、自前で作るには3000万かかると言われたので諦めました(笑)。そんなときに、ある方から「地下アイドルの運営がいいと思うよ」と聞いて。

ーーもともとアイドルに興味があったわけではなかったんですか?

大石:いやいや、むしろアイドルは大嫌いで、「歌もヘタ、ダンスもヘタなこの子たちの何がいいんだろう?」なんて思っていました。その一方で、「アイドルはパフォーマンスがヘタでもビジネスになる。上手くなっていく過程すらも、お金に変えることができるんじゃないか」と考えたんです。これまで僕らがヨーロッパや欧米で見てきたアーティストたちは、完成していないと表に出さないということを徹底していたし、受け手も完成したものに賞賛を与える文化だった。けれど、日本人はどこか未完成なものに美的感覚を刺激される人たちなのかもしれないなと思って、グループを立ち上げました。

ーーメンバーがいるなかで、ここまでアイドルを否定する人を初めて見ましたた。

大石:僕がアイドル嫌いなのはファンもみんな知ってますよ。この子たちも自分のことは、あんまりアイドルだと思っていないですし。ただ、周りからアイドルと言われ、アイドルイベントにもいっぱい呼ばれるので、「見てくださる方がアイドルだと思うなら、それでいいんじゃないかな」と考えるようになりました。

ーーメンバーはそんな経歴を持った大石さんのもとに、どのようにして集まったのでしょうか。

大石:オーディションやスカウト、専門学校を通して入ったメンバーもいますね。あまりストレートなオーディションはやっていないです。個人的には、オーディションではあまり良い子に巡り合えないし、時間の無駄だと思っているので。

 なんで芸能界って、無駄にオーディションするんでしょうかね。今はイケてる子はみんなSNSで才能をあらわしているから、そこで探した方がいい気もしますけど。

馬渕恭子(左)と椎原えみ(右)

馬渕恭子(以下、馬渕):私は元々居酒屋さんでアルバイトをしていたんですが、去年の9月くらいに出勤する途中で別の事務所からスカウトされたんです。その時は就活生で内定ももらっていたので、最終的には就職しようと思っていたんですが、その事務所の方と大石さんが繋がっていて、会って話してみたらすごく面白そうだなと感じて。それで、内定を蹴ってグループに入ることになりました。

鬼瓦トイ子(以下、鬼瓦):お芝居を18歳ぐらいからやっていて、20歳くらいの時に大石さんと知り合ったんです。その後、事務所を変えたり、別のジャンルで活動をしたいなと思った時に相談に乗ってくれた優しいおじさん……じゃなくて、大石さんから話を聞いて「この人についていこう」と思って事務所に入りました。グループに入ったら、全然優しくなくてびっくりしたんですけど(笑)。

小泉里紗(以下、小泉):私は数少ないオーディションから入ったメンバーですね。演歌女子ルピナス組(改名前のグループ名)のオーディションを受けに行って、一旦は姉妹グループの民謡女子ハピネス組に入ることになったんですけど、その後、民族ハッピー組に所属することになりました。

小泉里紗(左)と鬼瓦トイ子(右)

椎原えみ(以下、椎原):私はオーディションを受けて落選したんですが、大石さんにお声をかけていただいて、EGR(えぐる)の妹分グループに去年まで所属して、6月から民族ハッピー組に加入しました。

永井杏樹(以下、永井):下北沢を歩いていたときに、大石さんからスカウトされたのがきっかけです。2週間ぐらい猶予をもらったんですけど、3日ぐらいで「やります!」とお返事して、演歌女子ルピナス組の初期メンバーとして活動することになりました。

望月琉叶(以下、望月):大学の就職活動が終わったぐらいに、代官山でおじさん……じゃなくて(笑)、大石さんに声をかけられて。最初は怖かったんですけど、親を連れて一緒に会って、作曲が好きだし、なんか呼ばれている気がしたので、DJとして入ることになりました。

永井杏樹(左)と望月琉叶(右)

遠矢るい(以下、遠矢):最初は声優さんになりたくて、大学に行きながら事務所の養成所に通っていたんですが、個別レッスンを担当してくれていた先生と馬が合わなくて。そうしたら、その先生から「もうこの子面倒見きれない!」って、当時その事務所でお仕事をしていた大石さんに話がいったんです。レッスンを受け持ってくれるなかでグループに誘われて、演歌女子ルピナス組の初期メンバーになりました。

千代絢子(以下、千代):私も声優さんになりたくて、中学校を卒業したあとは、大阪で高等部のある専門学校に通ってたんですけど、歌のレッスンをしてくれてる先生が大石さんの知り合いで、EGRに誘っていただきました。当時は「高校卒業してからじゃないと東京で活動できないよ」と言っていただいていてたんですが、学校を辞めてそのまま東京に出てきたので、17歳でグループ最年少として加入しました。

遠矢るい(左)と千代絢子(右)

ーー大石さんとしては、どういうグループを作ろうと考えて、今のこのメンバーを選んだのでしょうか?

大石:まず重要視したのは、「絶対に個性が被らないようにすること」ですね。あとは「アイドルになりたいと思っていない人たち」を選ぶようにしました。僕、一番嫌いな言葉が「夢を追いかけろ」なんですよ。夢であっても何だとしても、その前に仕事として成り立ってなかったら何もできないと思っていて。何ともならないのに、練習が終わって飲みに行ってイキってるバンドマンが大嫌いなんです。あと、夢をつかんでも西麻布の高級ガールズバーでイキってる売れっ子バンドマンはもっと嫌いです。だから、「仕事としてちゃんとやれる人」を第一基準に選びました。「アイドルになりたい」とか「今やってることが私の最終目標なんです」という人たちって、「ステージ立てるんだったらお金いらないです」「夢が成功するまではアルバイトしながら頑張ります」となるし、ある程度のところまでいけない限りは、自分でやりがい搾取を助長してしまうと思うんです。だから、「お金がいらない」という子は選ばず、お金が好きそうな子たちを選びました。

ーーめちゃくちゃ語弊がある気がしますが(笑)。

大石:でも、「お金をもらえなかったらやれないよ」という人たちじゃないと、僕は嫌ですね。

ーーやりたいこともお金もどちらも取れるくらい貪欲な人がいいと。

大石:そうです。ちゃんと仕事としてお金をもらったうえで、やりたいことをやれる人がいい。だからなのか、うちに所属している人たちは、あまり若い子がいないんですよ。どうしても10代の子たちは、何を置いても「有名になりたい」が先にきて、それ以外を捨ててしまうじゃないですか。でも、うちは平均年齢が25歳くらいで、自分のやっていることを仕事にできて、ちゃんと対価をもらえる人たちしかいない。利益の70%を彼女たちに渡してるから、同世代の働いている人たちと同じくらい、それ以上の水準で生活もできています。

ーー70%はすごいですね。

大石:とはいえ、こちらも「仕事だから」と無茶なこともお願いしているので、本人たちからしたら「割に合わない」と思っているかもしれないです。

ーー同じ7割でも、100万のうちの7割なのか、1000万のうちの7割なのかでは、まったく違いますね。

大石:この子たちだけの売り上げだけで、年間で1億3000万円稼いでいますよ。とはいえ純利益の話なので、会社としての税金とか経費分は差し引いて、一番もらってる子たちで月100万円を超えたこともあります。

ーー失礼ですが、この規模感でそこまで上手く回っていて、本人たちにもきちんと還元されているという例は初めて聞きました。

大石:先ほどの話にも繋がるんですけど、業界全体として、有名になればなるほど本人たちのもらえるお金が割に合わなくなっていくシステムだと思うんです。もちろん最短で有名になろうと思えばいろんな人の力を借りないといけませんが、僕の目には「大人のお金儲けの道具になってる」ようにしか見えなくて。現代にも残る奴隷制度ともいえますよね。それは権利が分散するということなので、本人たちが一番利益を受け取るべきなんですけど、その子たちが末端になってしまうんです。そうすると、最後に残ったものを本人たちが分ける形になるので、僕は「そういう風には絶対にしない」とメンバーに話しています。自分たちでできるところは自分たちでやって、稼いで、自分たちに入る割合を多くしていく方法をとっているから、この規模感でも一人ひとりがメジャーなアイドルの3倍くらいのお金をもらえているんです。

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