ピクサー作品の“魔法”に隠された努力と研鑽 小野寺系が『PIXARのひみつ展』から紐解く

 最後の工程は、「レンダリング」。映画に使用する、いままでのすべての工程を総合した超大容量のデータを、二次元のピクセルデータに置き換えて、おびただしい数の画像をコンピューターによって計算させ、データを変換していく。これによって、ついに“映画”になるというわけだ。

 劇場長編第1作『トイ・ストーリー』の頃から、コンピューター自体も進化を遂げ、以前は1時間を要した処理を、1秒間でこなせるようになったのだという。だが、それで楽ができるようになったかというと、むしろ逆かもしれない。ピクサーは、その進化にあわせて、より詳細で繊細な表現を目指すこととなったのだ。『カーズ2』(2011年)の舞台の一つである、イタリアの観光地をモデルにしたポルト・コルサの街全体を映し出したシーンでは、スタッフから「悪夢」という言葉が飛び出すほど、処理しなければならない膨大な情報量があったのだとか。

 すべてのセクションには、実際に作品を製作した、ピクサーの各部門のスタッフたちが、それぞれ自分の担当する仕事や、自身のパーソナリティなどを語る、映像展示が用意されている。そのすべてを見るだけで1時間以上かかってしまうが、この動画によって、より詳しくピクサーの仕事を知ることができるだろう。ここで感じるのは、アニメーション作りのための、圧倒的な努力と研鑽である。

 各セクションの様々な人種・性別によるスタジオのスタッフたちは、それぞれにおそろしく優秀で、深い専門知識とユーモアを持ち合わせている。ピクサーのテクニカルディレクター、マイケル・キルゴアが展示映像のなかで、「“無理だ、とてもできない”と思うようなことでも、課題を切り分けていくことで前進できるんだ」と語っているように、スタッフたちは、それぞれの持ち場で、新しい実験を日々繰り返し、常に昨日よりも先へ行こうと、進化を続けている。

 これら気が遠くなるほどの労力が、およそ2時間にも満たない映像として結実したものが、ピクサーの映画作品だったのである。それを知らずに作品を見た観客が、「“魔法”にしか感じられない」というのも道理だといえよう。

 いまや、CGアニメーションは大きな潮流となっている。その老舗でありトップランナーであるピクサー・アニメーション・スタジオ。その最先端の技術や、情熱を知ることができる本展を鑑賞し、体験することで、ピクサー作品や、CGアニメーション作品を、より深い視点から見ることができるようになるのではないだろうか。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■イベント情報
『PIXARのひみつ展 いのちを生みだすサイエンス』
日程:2019年4月13日(土)~9月16日(月・祝)
時間:開館時間10:00~22:00(※最終入館は21:30)
場所:六本木ヒルズ展望台東京シティビュー
前売り料金:オリジナルグッズ付き前売り券1800円/一般1500円
当日料金:一般1800円/シニア1500円/高校・大学生1200円/4歳~中学生600円
(c)Disney/Pixar
オフィシャルサイト

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