水溜りボンド・カンタ×室井雅也が語り合う“越境する創作”「場所を選ばないポップな人でありたい」

水溜りボンド・カンタ×室井雅也対談

「『一緒に成長できてる感』があって楽しい」(室井)

ーーMV制作を通じて生まれた自分への問いに対して、苦悩したり、価値観が変わったり、前作と比べて「産みの苦しみ」があったんですね。

カンタ:産みの苦しみどころじゃないですね、産むかも迷うみたいな。

(一同笑)

カンタ:だって、撮影してしばらくの間、俺から連絡途絶えたでしょ?

室井:そうなんですよ!(笑) しばらく連絡こなくなった時に「俺ら、嫌われたのかな」って思った記憶が。

カンタ:あの時は撮影した帰りの車でもう編集を始めてたんですよ。でも、さっき話した“考える時期”に入って、6月くらいからようやくまた動き始めて……結果、MVは6パターンくらい作りました。1つ目を作ってから映像業界の人にアドバイスを受けたり、色々な人に「どうですか?」と聞いたときに、自分が考えたこともない指摘が次々と出てきて。「自分がいいと思ったならそれで良いじゃないか」という気持ちもあったんですけど、一方で「確かにそうだな」とも思って。「これはゼロからやらなきゃやばい」って気がついてから、ようやく自分がいるところがわかってきて、そこから少しずつ作っていって、今の形になりました。

室井:去年に引き続き、ミュージックビデオという合流地点で、カンタさんと一年に一回出会えたわけじゃないすか。織姫と彦星じゃないですけど(笑)。ジャンルは違えど、こうして密に制作を進めて行くことが「セッション」に近い感覚で、それぞれの視座から意見を出し合いつつ、お互いが納得する所まで持って行く。その過程が、こんなこと言ったらおこがましいかもしれないですけど、「一緒に成長できてる感」があってすごく楽しいんです。ミュージックビデオという部分でカンタさんのアーティスティックな部分と対面できたのは、本当に幸せでした。

カンタ:僕自身、いちクリエイターとしても、室井くんと一緒に成長していきたいと思ってますよ。そして、改めてこの期間で考えていたのは、「ポップと芸術」って全然違うんだなということ。僕は動画にしろなんにしろ「ポップとアートの中間あたり」が良いなと思うんですけど、それってなかなか狙えなくて。YouTuberって「たくさんの人に知られたい」がスタートだから、「ポップ」なものだと思うんですけど、「ポップ」から入って来た人が「アート」の方に進んでいくのって、すごい大変なんだなと思いました。

室井:アートの方面から向かい風が吹いている感じですよね。

カンタ:そう、だから「アート」の方の勉強を一から全部やらなきゃいけないし、実際に映像もたくさん見ました。勉強していく中で、映像に関わる様々な人の技術の凄さを知りましたね。一本目の時は手伝ってくれてる照明さん、カメラさん、プロデューサーさん、役者さんたちを漠然と見てしまっていたんですが、今は「この色ってこうやってやらないと出ないんだ」、「レールを敷いているからこういう映像が撮れるんだ」ということも知って、自分の思い描く映像をどうやって作るかのシミュレーションができるようになりました。

室井:「ヒロインは君で」を撮影していた時のカンタさんは、側から見ていてスタッフさんと手探りで進めている様子だったのですが、今回の撮影に関してはずっとカメラにつきっきりで、その姿がとても印象的でした。

ーーでは、そんなMV本編について。今回は映像のなかで比率の切り替えや画面分割など、様々な表現技法を用いたMVになっています。どのような意図・コンセプトを持って制作されたんでしょうか。

カンタ:やっぱりまずは何も情報を入れずに見て欲しい、というのが正直なところなのですが、言えるところだと“季節から想起されるイメージ”を各所に散りばめたり、自然の中で美しいとされる「黄金比」を使ってみようと思ったんです。

室井:黄金比による分割もまた、「風が吹いている」ように見えますし。あと衣装もウィンドブレイカーですし(笑)。

カンタ:まさに! そういうところにもこだわっているわけです。スモークを焚いて風を表現したりもして。

室井:「季節のグルーヴ」は前作に比べて「考えるな、感じろ」という作品なので、見る人が体感して楽しむようなMVだなという印象がありますね。国語の問題用紙みたいな感じで、自由に回答を描いて欲しい、解釈して欲しいという内容になっているというか。

カンタ:僕が意図している以外の解釈も思いつくような「余白」は残していますね。「黄金比」も色々な見せ方をしていますが、あえて表現しすぎないようにしているところもあります。今回の制作を通じて、自分がものすごく映像オタクになったなと自覚しました。世の中にはものすごい数のMVがあるわけで、やっぱりそれを作る人はすごいなと改めて思いました。

ーーそこまでの苦しみもありながら、カンタさんが「MV・映像作品を作り続けたい」理由とは?

カンタ:最初は「楽しそうだから」という動機でしたけど、カメラマンや役者、ミュージシャンといった「色々な人と1つの作品をつくれるようになりたい」と思うようになったことが大きいですね。今のYouTuberって、大人に「100万再生を取ったんですよ」って話したところで「すごい人気だね」っていう話で終わってしまうことが多いじゃないですか。一緒にYouTubeをやっているクリエイターの仲間の中にも、「こいつすごいな」ってやつがいるのに、大人にはわかってもらえなくて。

室井:確かに、世間ではYouTubeの動画が「映像」としての妙や表現の可能性があるコンテンツとしてではなくて、奇抜な動画の内容やYouTubeのシステムがどうしても目立ってしまっている気がします。

カンタ:「自分で編集してるの!?」って驚かれることもあるし、世間の認識からしたら、ただ出演してるだけって思われますから。でも、昔の漫画が「漫画読んだらバカになる」とか「くだらないもの」って言われてたのに、手塚治虫さんのような歴史を作る人が出てきた時に大人も認めざるを得なくなって、漫画というジャンル全体が認められた、ということがあったわけで。そういうことをYouTubeで起こしたいし、それができた時にYouTubeすごいぜって言えるようになる気がして。

ーー普段の動画以外のところで結果を残すことによって、「YouTuber」全体の評価を変えたいという思いがあると。

カンタ:ボカロ界では、ハチ(米津玄師)さんもそういう役割を果たした人だと思うんですよ。「ボカロでしょ?」ってバカにしていた大人がたくさんいる中で、ニコニコ動画から出てきてメジャーのフィールドで活動して、大人気になったわけじゃないですか。今でも「YouTuber好きなんだよね」って言いづらい場所があったり、「この動画面白いんだよね」って人に勧め辛い時はある気がして。でも、「YouTuberでしょ?」ってバカにされた時に、「あのMV撮った人だよ」ってひとこと言えたら「すごいのかな?」って思わせられるのかなと。映像業界の人にも、「YouTuberって情熱持って映像作ってるんだな」って思ってもらいたいですし。

室井:そんなカンタさんの一作目が「ヒロインは君で」だったのが、僕にとっては不思議なんです。世間的な見え方からしたら、僕なんか全然マイナーな人間なのに。

カンタ:いいものを作っているひと全員が、必ずしもすぐに売れる世界ではないじゃないですか。どこか世間の見えないところで10年ずっと絵を描いている人がいて、その人の絵は凄まじいものかもしれないけど、一生表には出ないものかもしれない。そういう人の表現に惹かれる部分があったから、かもしれません。あと、「人気になりたいから」という理由で頼んできた人のMVは撮りたくない。そういう人かどうかは話してみたらわかりますし。

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