JUVENILE(OOPARTZ)×Toyotaka(Beat Buddy Boi)と考える、パフォーマンスを加速させるテクノロジーとは?
「パフォーマーのすごさを加速させるテクノロジー」が欲しい(Toyotaka)
ーーパフォーマー側からすると、今回のTHINK AND SENSEの演出のような視覚効果がつくと、普段よりも大振りのパフォーマンスができたりするんでしょうか。
Toyotaka:空間演出をやっていただけるのでより世界観が伝わりやすいですね。あと、今回面白いなと思ったのは、テックの人たちの発想って「テクノロジーのすごさを理解させるためのパフォーマンス」という出発点の思考が多いんですよ。でも、パフォーマーの僕からすると「パフォーマーのすごさをブーストさせるためのテクノロジー」が欲しいんです。そこを議論しながら作っていくのは大変でしたが、お互いに持っていないものを引き出す感覚で楽しかったです。今回だと、MIDIパッドを叩いてAbelton Liveに入力した音を、Touch Designerを介してステージ後ろのLEDディスプレイにリアルタイムで出力する、という演出とか。リハでめちゃくちゃ時間がかかってしまったんですけどね(笑)。
ーーJUVENILEさんの話に戻すと、僕が面白いなと思ったポイントもいくつもあるんですけど、途中で1回解説タイムを入れて作った、というところも大きかったと思うんですよね。あれによって「何を作っているか/どう作っているか」がすごくオープンになったというか。
JUVENILE:そうですね。初期のタイムテーブルでは後で解説する予定だったんですが、他のタイムテーブルとかの兼ね合いもあって、手前にやったんですよ。
Toyotaka:もともと、JUVENILEからも「途中経過を説明して、実際どうなるかワクワクするのとかよくないですか?」という話はあったので、そうしてみようと思ったんです。
ーー解説タイムでは、音を波形にしたり、切って編集してループにしたりというトラックメイキングの部分を見せたと同時に、グラスの音などの“音程の取りやすい音”みたいな話もしていましたよね。
JUVENILE:音程はどんなものにもあるんですけど、グラスとグラスをキンってぶつける音は音程がわかりやすいんです。なぜかというと、ぶつけた後も震え続けるからなんです。当日はその音を音階に当てはめて……確かファ#だったと思うんですけど、それをベースに作っていきました。
ーー曲の尺はあらかじめ決まっていたんですか?
Toyotaka:「パフォーマーはそれぞれこのビートの方が多分、活きると思う」というのは事前に相談しつつ、「調子に乗っていっぱい踊っちゃうから、X timesになると思う」ということも前置きしていて(笑)、見事に対応してもらいました。
JUVENILE:結果的に3パターンのトラックになりましたが、打ち合わせの段階とかでは5パターンぐらい作る想定でした。5パターンだったら間に合ってなかったかも。
Toyotaka:「実験、失敗!」だったね(笑)。まあ、それもそれでリアルな感じがしていいかなと思ったんですけど。
JUVENILE:最強の免罪符ですね(笑)。
ーーいち観客として、今回の実験は「大成功」という風に思うんですが。
Toyotaka:いえいえ、修正点だらけです。初めての試みではありますし、会場としても音の制限があったり、映像が間に合わなかったり、パソコンの機嫌でリハの時間が入れ替わったりと、ハプニングだらけだったので、無事終わって本当に良かったというのが本音ではありますね。本番もし止まった時の想定もしなければいけませんでしたし。僕はヒューマンビートボックスで繋ごうとしてたんですけど。
JUVENILE:最終的にはマンパワー、フィジカル頼りになるという(笑)。
Toyotaka:本当そうだよね。パフォーマーも日本一・世界一の人たちを集めてやっているので、そこに関しては信頼がおけますし、何があっても大丈夫だろうという気持ちはありました。
ーーたしかにインプロ的な動きが得意な方たちでもあるわけですからね。
Toyotaka:なんでもできちゃうんですよ。自分たちの表現を追求してきた人だからこそ、その表現をできるだけ変えないでエンタメにしたいっていう思いがあって、テックの力をお借りしている部分があるんです。
ーータップダンスやラップも、あれだけわかりやすく見せてもらうとよりスムーズに入ってきます。
Toyotaka:アーティスティックな表現が欲しくて、安達雄基くんのパートも僕が演出含め色々考えてみたんです。ラップとまったく同じようなフロウでやったらどうなるかとか、そこにダンス入れ込んだらどうなるか、みたいな。でも、タップに関しては2つぐらい削っちゃった演目もあって、次回以降の楽しみにして欲しいです。
ーー改めて解説すると、タップを踏んでいる床のマイクから音を録って、その波形をLEDスクリーンに投影するというものですよね。
Toyotaka:はい。本当はお客さんの声援なども読み込めるので、今後はもう少し色んな演出ができそうです。
JUVENILE:見てましたけど、ほぼレイテンシーがなかったですよね。音が出て読み込んで波形になって映す、という結構遠いルートを通ってるけれど、ほぼリアルタイムでしたもん。とはいえ、こうやって説明しないとわからない部分もあるわけなので、もっと報われる見せ方もあるかもしれないですね。
Toyotaka:そこは俺も今回ちょっと反省していて。なかなか「実はリアルタイムで音を読み込んでるんだよ」という風に見せるのが難しかったんですよ。一つひとつ解説したら、1時間の半分が説明になっちゃうじゃないですか。
JUVENILE:そういえば、なんでトータルタイムが1時間なんですか?
Toyotaka:正直、1時間半にも2時間にもできるんですけど、お客さんに「うわー、もっと見たかった!」と思って帰ってほしかったし、ダンス界隈ってぎゅっと凝縮したイベントがあまりないんですよ。ダンス界隈だと内向きなことが多くて、DJタイムがあって、ショーがあっての繰り返しで。だからこそ、1時間の中でどれだけドロドロの濃厚なものを詰められるか勝負してみたいなと思って。
ーーたしかに、新しい情報って多すぎると脳が追いつかないですもんね。あれくらいがちょうど覚えていられるいい長さというか。
Toyotaka:間違いないです。
ーーそういえば、今回イベントを立ち上げるにあたって、参考になったパフォーマーや考え方はあるんですか?
Toyotaka:強く残っているものはいっぱいあるんですけど、代表的なもののひとつはKREVAさんの「ひとり武道館」ですね。ラップしてDJして、その場でループステーションで音作って、ラップの韻を解説して、というのを一人で全部こなしている。そこで、僕1人では絶対無理だけど、心強い仲間たちがいたら多分できる、って思ったのは1つのきっかけですね。あとはSIRO−Aさんの単独公演で、開演前にお客さんの写真を撮って、最終的に全員の写真がマッピングされるというパフォーマンスを見たことは、今回JUVENILEにお願いした内容にもつながっていると思います。また、Netflixで『アート・オブ・デザイン』というオリジナル番組があるんですけど、そこでエス・デブリンを特集した回も衝撃でした。カニエ・ウェストやビヨンセ、U2などのライブステージをデザインしている方を取り上げたものなんです。僕はダンスや音楽で人を感動させたいとずっと思ってたんですけど、ゴールが同じなら手法は問わないんだな、空間演出でもこんなことができるんだ、とかなり影響を受けています。
ーーここまで『JIKKEN』の種明かしをしていただきましたが、この実験は続いていくのでしょうか?
Toyotaka:続きますね。個人の思いとしては毎月やりたいくらい。
JUVENILE:え!?
Toyotaka:思いとしては、ね(笑)。もちろん毎回ブランニューなものというよりは、面白いコンテンツをどんどん作っていく、という形で。そういうものは色々残してマイナーチェンジもしつつ、最終的にシルク・ドゥ・ソレイユみたいに長く色んな人に楽しんでもらえるものを作らないと、ムーブメントにはなりにくいのかなと。
JUVENILE:同じことを長い間やっていけるって、1番いいですよね。
Toyotaka:とはいえ、「常に進化したい」ってずっとやってきている人たちだから、同じものを1年やらされることは絶対嫌だと思うので、そこが悩みどころです。だから、お客さん参加型のパフォーマンスを増やすことで、その日にしかないリアクションや曲ができる環境にしたくて。やっていることは一緒だけど、毎回見え方が違う、というのが理想です。
(取材・文=中村拓海)
■ライブ情報
『JIKKEN』第2弾:9月末ごろ開催予定
出演:Beat Buddy Boi ほか
■リリース情報
JUVENILEが作編曲を手掛けた『1人のダンス』が各配信サイトよりリリース中
映画『1人のダンス』:都内含め3館での拡大上映決定
https://www.hitorino-dance.com/