アバターはOSになり、人はテクノロジーと旅をするーー新たな概念「Virtual Beings」について

アバターとAIが握るコンピューティングの革新

 古くから人は「人を模すこと」に力を注ぎ続けてきた。そして、メディアと表現の進化を両輪に新たな作品を生むことで、その発展は続いている。文学・演劇・映画など、数多のメディアによって象られた作品たちは、他者の行動の追体験や、全く新しい世界との出会いをもたらし、それによって人々は自身の有り様を確認し続けてきたとも言える。

 テクノロジーが新たなメディアを産んだとき、また新しい表現が育まれ、それらは相互作用を与えながら技法として育っていく。ニコニコ動画の拡大と初音ミクのムーブメントなどは記憶に新しい例だろう。

 しかし、「人を模すこと」には大きな課題が横たわっている。つまり、上に挙げた数々の例はすべて、人がその過程(シークエンス)をコントロールすることでのみ成り立っているということだ。人格は人のコントロールするシークエンスの中・シーンの中でのみ生きている。これを解決できるであろう技術が人工知能(AI)だ。もし、自立して思考する高度なAIがMiquelaやMicaのようなアバターをまとい、人々と同じような振る舞いを見せられるような未来が来たとき、「人を模すこと」は全く新しいフェイズへと進んでいるだろう。

 Edword氏は「未来のVirtual Beingsは次世代のOS(オペレーティング・システム)を担うだろう」と語っている。コンピュータのオペレーションを対話型エージェントが行う、というアイデアは新しいものではなく、SFの世界では幾度も使われているモチーフであり、また1988年にApple Computer(現・Apple)が発表したコンセプトムービー「Knowledge Navigator」はまさしくそんな未来を描いたものであった。

アップル「ナレッジナビゲーター(Knowledge Navigator)」日本語吹替版

 コンセプトムービー「Knowledge Navigator」。未来ではタブレット型のMacintoshの中に常駐したエージェントが予定の確認や資料の作成をハンドリングしてくれるという内容。

 Edwordはまさしくこの未来を語っており、この萌芽としてVirtual Beingsを提唱している。今年の夏にはVirtual Being Conferenceの開催も予定されており、500を超えるVR・AR関連企業の参加がアナウンスされている。

 日本においてもベンチャーや大企業にかかわらず多くの企業が、人工知能やキャラクタービジネスをかけ合わせたプロダクトに試行錯誤している現状がある。テクノロジーが社会に与える影響と、それをマネタイズすることの難しさ。こうした技術の向かう未来を「Virtual Beings(仮想実存)」と定義することは画期的な機能を持っているように見える。何度も見たコンピューティングの革新に連なる、新しい概念として定着することを祈りたい。

■白石 倖介
テック系月刊誌の編集者を経て、フリーライターとして活動中。Mac・iOSに詳しい。最近の興味対象は人工知能・VR・メディアアートなど。趣味は風景撮影。主にTwitterにいます。TwitterBlog

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