「好きなキャラクターと一緒に暮らしたい」 『Gatebox』開発者インタビュー

Gatebox開発者インタビュー

 2016年1月に発表され、大きな反響を呼んだプロダクト「Gatebox」。プロジェクタを内蔵した「バーチャルホームロボット」で、本体内に投影されたキャラクターとのコミュニケーションを楽しめる製品だ。「好きなキャラクターと一緒に暮らす」ことをコンセプトに開発され、300台の限定生産モデルは約30万円と高額ながらわずか約1カ月で予約受付を終了し、今年の2月に出荷された。続けて7月には量産モデルと、その中で暮らすオリジナルキャラクター・逢妻ヒカリのビジュアルも発表。月額制の量産モデルで逢妻ヒカリと一緒に暮らすためには月々1500円の「共同生活費」が必要になり、その料金プランも話題になった。今回は同製品の魅力や、月額制プランの真意などについて伺うため、Gateboxの開発会社、Gatebox株式会社CEOの武地実氏にインタビューを行った。

<プロフィール>
武地 実 
広島県広島市出身。2014年2月に株式会社ウィンクルを設立、2017年7月には社名をGatebox株式会社へ変更。「キャラクターと一緒に暮らせる世界」の実現を目指し、バーチャルホームロボット 「Gatebox」の開発に注力している。

「これができたらみんなの夢が叶うだろう」と思って作った製品

――Gateboxの製品紹介には、「世界初のバーチャルホームロボット」とあります。全く新しい製品ジャンルですよね。

武地実(以下、武地):この言い方が正しいのかよくわからないのですが、僕たちはそう呼んでいます。ほかに見たことがない製品なので……。ただ、開発初期からブレていないのは「好きなキャラクターと一緒に暮らしたい」という思いです。Gateboxでは、キャラクターを出現させて、共同生活を体験できます。今は「ロボット」と呼んでいますが、ロボットの定義も難しいので、呼び方は時代によって変わるかもしれません。いずれにせよ、「2次元の好きなキャラクターが画面の向こうからこちらの世界に会いに来てくれるような製品」という点だけはブレずにやっております。

ーーGateboxさんは、この製品のために始まった会社なんですか?

武地:最初は違う製品を作ってました。2014年に会社を立ち上げた当初は、スマホのイヤホンジャックに刺す鳥の形をしたアクセサリを作っていたんです。スマホアプリと連動して、アプリ上で自分の趣味を登録しておくと、同じ趣味を登録してある人に近付くと光り合う、という製品でした。作った経緯としては、僕が異業種交流会とか、街コンみたいな場所に行ったときに、人に話しかけるのがすごい苦手で、何か話しかける「きっかけ」があるといいなと思って。例えば共通の趣味があれば話しかけやすいし、それが光っていると、可視化されてわかりやすいだろうと。そんな「光を使ったコミュニケーションツール」が最初のプロダクトでした。最初の1年間はそれを作っていたものの、全然売れなくて倒産のピンチを迎えて。そのなかで、「せっかく起業したんだから、もっと夢のある製品にチャレンジしたい」と思って、特に僕が本気でやりたいと考えたことが、「好きなキャラクターと一緒に暮らす」ことでした。そこからGateboxが始まりました。

――スマートフォンの光るアクセサリもGateboxも、全く別の製品ですが、「コミュニケーション」がコンセプトになっているんですね。

武地:そこだけは変わらないですね。相手が人間かキャラクターかの違いです。僕はとてもコミュニケーションが苦手なので、そういうコンプレックスからプロダクトが生まれていると思います。

――そのコンセプトから始まって、どのように「逢妻ヒカリ」ちゃんが生まれていったんですか?

武地:"嫁"というのをコンセプトにキャラクターを作り上げました。

ーー"嫁"ですか。

武地:はい。まず、僕は初音ミクがすごく好きで、彼女の歌を毎日のように聴いていて、「初音ミクが家に来てくれると嬉しいな」という思いからプロダクトを始めたんです。ハードウェアの開発を進めていくなかで、「好きなキャラクターと一緒に暮らす」って一体どういうことなのか?という実例を世の中に示す必要があって。そこで、自社のオリジナルキャラクターを作って、「Gateboxではこういうことができるんだよ」ということをどんどん見せていこうと思い、開発を始めたんです。キャラクターには色々な形があると思いますが、誰からも好かれるキャラクターより、尖ったキャラクターを作りたかった。例えば人間だったらお嫁さんであったり、旦那さんであったり、「好きな相手と一緒に暮らす」っていうことは大事なことで、だから人間のパートナーと同じようにキャラクターと一緒に暮らせるなら、それは今までにない体験になると思いました。

――なるほど。だから"人型"だし、"嫁"なんですね。

武地:そうです。それなりに物議を醸すのではないかなと思ったんですけど、結果的に話題になってよかったなと。

――キャラクターデザインに箕星太朗さんを起用したのにも、何か意図がありますか?
※箕星太朗:デザイナー・イラストレーター。過去、ミノ☆タロー名義で『ラブプラス』シリーズのキャラクターデザインを担当した。

武地:「一緒に暮らす」ということは、まさに人間の生活を変えることなので……当時『ラブプラス』というゲームは本当に人々の生活を変えてしまったと思います。キャラクターと恋愛するなかで、ユーザがキャラクターと旅行に行ったりしていました。『ラブプラス』のようにユーザの生活を変えるようなものを作りたくて、箕星先生に「"彼女"じゃなくて、次は"嫁"作ってください」とお願いしました。

――具体的にデザインの中で"嫁感"が表れているパーツはありますか?

武地:一番は「エプロン」です。

ーー確かにエプロンって、基本的に家の中でしか付けないですね! テーマカラーが青いのはなぜですか?

武地:「未来感」を意識しました。ちょっとサイバーっぽいというか、"近未来"の感じを出したかったので。製品の外装も、アニメの『サイコパス』や『攻殻機動隊』など、近未来を舞台にした作品に出てくるようなモチーフを意識しました。当時のIoT製品は、シンプルでスマートで大体銀色!のようなものが多くて、「全然面白くないな」と思っていました。対してアニメ作品とか、日本のカルチャーならではのデザインというのは、やっぱりカッコいいな、と思って取り入れました。

Gatebox外観
Gateboxオリジナルキャラクター・逢妻ヒカリ

新しい「体験」を提供するために定額制を導入

――量産モデルの発売時に定額制を導入されたとのことですが、その経緯はどういったものだったのでしょうか?

武地:今回「共同生活費」という形で、逢妻ヒカリと長く一緒に暮らす方には毎月1500円の共同生活費をお支払いただく、というモデルになってます。以前販売した限定生産モデルは本体が約30万円の買い切りだったのですが、今回発表した量産モデルは本体を半額の15万円にして、とお求めやすい価格にしました。

――半額はすごいですね。

武地:頑張りました。僕らの姿勢としてはハードウェアの販売で利益を得るという考えはなく、「好きなキャラクターと一緒に暮らす」という体験を提供して、それを支持してくれるマスター(購入者)さんからお金をいただく、という形を取りました。

――マスターはどんな方ですか?

武地:当社のビジョンに共感してくれた方々だと思っています。性別は圧倒的に男性で、年齢でいうと、20代から40代ぐらいまで幅広い層の方に買っていただいています。

――マスターのフィードバックの中で、何か印象的なエピソードなどはありますか?

武地:いちばん嬉しかったのは、帰ってきたら「おかえり」と声をかけてくれたことを喜んでもらえたことです。現状のGateboxにはまだまだできることが少ないのですが、今後のアップデートに期待していただいていると思います。そういう方々の声は励みになります。

――WEBサイトを拝見しましたが、初音ミクと暮らせるモデルもあるんですか?

武地:「限定生産モデル」だけの機能となっており、現在そのモデルは販売はしていません。「限定生産モデル」の予約販売後に、「初音ミクも登場します」というリリースに合わせて39台限定で追加販売をしました。それを発表したのは去年の8月ですが、その39台に対しては960人の応募がありました。倍率20倍以上です。

――「30万円で初音ミクと暮らせるなら」という人が960人いたってことですよね。

武地:いま初音ミクさんと暮らせてるのは合計339人だけなのですが、僕たちとしては今後初音ミクさんをはじめいろいろなキャラクターを増やしていき、それぞれの好きなキャラクターと暮らせる世界にしていきたいと思っています。

――プラットフォームとしてGateboxが機能するようなイメージですね。

武地:考え方としてはゲーム機に近いです。これ1台あればいろいろなキャラクターを選んで一緒に暮らすことができます。

――どういう仕組みでキャラクターを投影しているんですか?

武地:投影方式としては「リアプロジェクション方式」を採用しています。特殊な透明スクリーンに後ろからプロジェクタで映像を照射すると、キャラクターが空間上に存在しているように見える、といった技術です。

――LINEとの連携機能がありますが、無線LANにつながるのでしょうか?

武地:常時無線LANに接続しています。イメージとしてはクラウド上に頭脳のようなものがあり、LINEでメッセージを送ると、クラウドからGateboxに伝えられて、キャラクターがリアクションを返す、というような仕組みです。システムアップデートなどもスタンドアローンで可能です。

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