“あの人のゲームヒストリー”第十一回:田中道子
田中道子が語る、オンラインゲームと女優業の意外な共通点「その“普通の感覚”が活きてくる」
「全く違うジャンル・価値観の人たちとの繋がりが仕事にも活きる」
ーー相手が田中さんのことをOLだと思っている、という話がありましたが、その設定に合わせて演技したり、自分をキャラ通りに動かすという意味では、ある意味演技に近いところもあるのでは?
田中:ああ、確かにそうですね。演じてて楽しいですし、実際にそういう別の生き方をしていた可能性もあるので、ありえたかもしれない未来を想像しながら、「こういう性格で、おそらくは今頃後輩もいて……」なんて考えたりしています。とはいえ、実際私がこういうお仕事をしていることを知ってる人も何人かいるんですが、そういうのは気にせず、一緒にゲーム友達として付き合ってくれています。ゲームの中では立場や年齢、性別、どこに住んでるかは関係なく、仲間になれるのが好きなところでもあるので。
ーーわかります。ゲームの経験がお仕事に活きた、仕事で得たものがゲームに活きた瞬間は今までありましたか?
田中:「人を羨んだりすることよりも、自分にしかない個性を大事にして伸ばしていく」というのは、ゲームから教えてもらった価値観ですね。少し話は逸れますけど、私って周りの人から「変わってるね」って言われることが多くて。ゲームをやりすぎた結果なのか、自分の理想を突き詰める性格になっていたんです。現実的な話をするより「理想はこうなんだから、そうなるように頑張ろう」という考え方をするようになって。人間関係に関しても、この業界ってドロドロしたものがうずまいている場所なんですけど(笑)、「みんな仲良くなる方法はないのか」って常に探しているんです。「その考え方は甘いですよ」って言われるんこともあるけれど、悲しむ人は少ない方がいいに決まってるじゃないですか。ゲームの世界にはそういう理想にも共感してくれる人が多かった、というのもあるかもしれませんが。
ーーオンラインのゲームをやればやるほど、多様性を重要視するようになるというか、考え方が寛容になっていくというのはすごくわかります。キャラクターは限られた数しかいないですが、その後ろにいる人たちは色んなお仕事・性別・年齢だったりして。
田中:そうなんです! 最近やってたオンラインゲームでも、愛知県に住む40代の主婦の方と泊まりに行ってお話するくらい仲良くなって。普通に女優のお仕事をやっていたら、そういう人と触れ合う機会ってほとんどないんです。でも、彼女から田舎で主婦をやっているが故の日頃の鬱憤なんかも聞いたりして、すごく新鮮なんですよね。そのうえ、演技をする時にはその“普通の感覚”が活きてくるわけです。
ーー近しい人間関係じゃないからこそ、話せる部分ってかなりありますよね。
田中:私にとっても女優としての視野を広げてくれる体験ですし、そういう知り合い方だからこそ本音を話し合えたりするんですよ。現実と同じぐらい、もしくはそれ以上に大事にしている人も多いですし、それくらいネットの関係って現実のものになっていると思うんですよ。ネットでの繋がりが批判されなくなってきた時代になってきたのも実感してきていて、すごく嬉しくなりますね。
ーー当たり前になったからこそ、ゆっくりやり取りして繋がる“あの感覚”が失われてしまった、とも言えますね。
田中:確かにそうですね。私だって1年間ぐらいネットで片思いしてアタックしてたのに、いまは一瞬ですから(笑)。
ーーここまでお話を伺って、ゲームをすることによって人生が豊かになっている人なんだなと改めて思いました。
田中:やっぱり、東京に1人で住んで、仕事関係の人ばかりとお会いしてばかりだと、狭い世界にいる気がして不安になるんですよね。自分の人生で気持ちが揺さぶられる瞬間に生きがいを感じるタイプなので、全く違うジャンル・価値観の人たちと繋がっていることが、仕事にも繋がるし、自分としても楽しく生きていられる方法なんだと思います。ここ何年かで1番仲良い方は数学者をしているんですけど、話してるだけでアドレナリンがすごく出る話をしてくれて。この人も、普通の生活をしてたら絶対に知り合うことができなかった人ですね。
ーー田中さんの人生自体もすごくRPG的ですよね。夢に向かって突き進んで、伏線を回収してパーティーを組んで。
田中:序盤の伏線は結構回収できたかもしれないですね(笑)。最初はゲーム好きだったり、建築の資格を取ってたことが無駄になっちゃったなって思ってたんですけど、最近はゲームの仕事もさせていただけたり、ドラマ『後妻業』で建築士の役をいただけたりして、「レベル上げしててよかったな」って感じることが多くなってきましたから!
(取材・文=中村拓海/撮影=はぎひさこ)