『Spotify』2018年間ランキングにみる、世界の音楽シーンの変化とは?
音楽ストリーミングサービスの『Spotify』が、2018年の音楽シーンを振り返るランキング(集計期間:2018年1月1日 – 11月29日)を発表した。今年の「世界で最も再生されたアーティスト」は、2015年と2016年にも首位に立ったドレイクが再びトップとなったほか、ラテン系のアーティストが世界で最も聞かれたアーティストランキングのトップ10に3組(4位 J.バルヴィン、7位 Ozuna、8位 バッド・バニー)するなど、世界の音楽シーンの変化を如実に表した内容となっている。
この今年を振り返る世界的な指標について、音楽ジャーナリストの柴那典氏に話を聞いた。彼は「男性アーティスト・女性アーティスト・グループと分かれているアーティストランキングの形式では計りづらいので、楽曲ランキングから紐解いていきたい」と前置きをしつつ、下記のランキングについて述べた。
世界で最も再生された楽曲
1. God’s Plan / ドレイク
2. SAD! / XXXテンタシオン
3. rockstar (feat. 21 Savage) / ポスト・マローン
4. Psycho (feat. Ty Dolla $ign) / ポスト・マローン
5. In My Feelings / ドレイク
「まずは何といってもドレイクの圧倒的な強さについて。これは彼がストリーミング時代の最も強力なポップスターであることを端的に表した結果でしょう。もちろん、ドレイクはデビューアルバム『Thank Me Later』から初登場全米1位を獲得していますが、4thアルバム『Views』あたりから、彼のやることがインターネットミームになっているんです。例えば、ミックステープ『More Life』を“プレイリスト”と名付けたり、今年1位に輝いた「God’s Plan」は、MVのなかで学校や一般の方に1億円以上寄付している様子を映して話題を集めるなど、音楽の評価と世間の関心の両方を手中に収めました。また、音楽的には彼の登場でシンガーとラッパーの境界線があやふやになったとも思っています」
続けて、2位にランクインしたXXXテンタシオン、3位のポスト・マローンについてもこう話す。
「先日ハワイに行く機会があって、レンタカーのラジオを聴いていたら、ロックだけが流れるチャンネルに合わせているのに、この2人の曲が掛かってきて、驚きと同時に納得しました。彼らのスタイルのことを僕は”グランジ・ラップ”と銘打って紹介しましたが、実際に海外のメディアでは“エモ・ラップ”と言われ、昔ならロックバンドが担っていた、アメリカのある種内省的・自己破壊的な感性を受け継ぎ、世界中でヒットしています。さらに、この2人は2017年にSpotifyを介して世に出たニューカマーでした。ストリーミングサービスの普及前は『すでに名のあるアーティストに有利なサービス構造だ』と言われていましたが、実は起こっているのは世代交代だったということも改めて証明できたのではないでしょうか」
また、今年は世界の多様な音楽文化を紹介する人気プレイリスト「Global X」でラテン系音楽が全面的に取り上げられたり、J.バルヴィンやOzuna、バッド・バニーなどのラテン系アーティストがランクインしたことについても「世界的に見逃せない潮流」と述べる。
「昨年はルイス・フォンシの『デスパシート』がバズを起こしましたが、今年そのポジションにいるのはJ.バルヴィンの『ミ・ヘンテ』と言えるでしょう。こうしたスペイン語楽曲のヒットもそうですし、アメリカの王道的な流れから少し外れたところから世界的なヒットソングが出てくる流れにあります。かつては西海岸と東海岸で分かれてニューヨークとロサンゼルスに中心があったシーンも多様化し、フューチャーやミーゴスを輩出したアトランタを筆頭に、XXXテンタシオンのフロリダ、トラヴィス・スコットのテキサスなど、アメリカ南部からスターが登場している。その一方でカナダのトロントを拠点にするドレイクやザ・ウィークエンドが世界中のシーンを席巻し、プエルトリコやコロンビアからレゲトンや“ラテン・トラップ”という新たなジャンルのヒット曲も生まれている。アメリカ大陸全体に音楽シーンの発信源が点在する状況に変わっているような気もします」
そして、今回の発表は日本のランキングについても触れられている。柴氏はまず、アルバム・アーティストランキングを見渡しながらこのように分析した。
「アーティスト・アルバムランキングはともにBTS(防弾少年団)が獲得しました。彼らは2018年のアジアを代表するアーティストであり、グローバルなスターとなりました。日本では“第三次韓流ブーム”という声もありますが、彼らをそこの枠組みに入れるのは、個人的に間違っていると思います。わかりやすく言うならレディ・ガガに近いロールモデル、とでも言えるかもしれません。どちらも『Little Monster』『ARMY』と、名前の付いた強いファンダムを形成していますし、それぞれマイノリティを中心にしたファンダムが力を付け、ソーシャルメディアで発信することで周囲を巻き込みマジョリティまで押し上げました。『Born this way』や『Love Yourself』のように自己を強く肯定するコンセプトを持った楽曲をリリースし、発言にも影響力がある。出自は全く違いますが、若者への影響という意味では、両者はかなり近い位置付けとして考えることができるでしょう」