ルーマニア独裁政治下のアクションパズル 『ブラック・ザ・フォール』が描き出す自国の暗部

 戦後長らく、ルーマニアでは強権的な独裁政治が行われていた。その時期をモチーフとしたアクションパズルゲームが『ブラック・ザ・フォール』である。制作したSand Sailor Studioは、2014年に活動を開発したインディペンデント系のデベロッパーで、ルーマニアの首都ブカレストに本拠を置く。つまり『ブラック・ザ・フォール』は、自国の暗部と革命の歴史に着想を得たゲームなのだ。

各所に設けられた障害物を、頭を使ってくぐり抜ける。基本的にはアクションパズルゲームだ

 『ブラック・ザ・フォール』の主人公に名前はない。「彼」は年老いて、それでもなお巨大な工場のような施設で働かされ続けている労働者である。ある日いつものようにエレベーターで職場に放り出された時、彼は自由のための逃避行を始めることを決断する。立ちはだかる障害物や監視カメラ、獄卒たちを避けながら、ひたすら画面左から右へと「彼」を操作して移動し続けるのがゲームの目的だ。

 障害物にはスイッチが付いていて操作できるものや、動くタイミングに合わせて飛び乗ったりすることで移動の助けになるものが含まれており、それをパズルのように読み解いて移動することが求められる。また、途中で手に入るレーザーポインターを活用するのも大事だ。このレーザーポインターを使って、周囲の労働者たちや機械、それに道中で仲間になる小さなロボットへ移動や機械の操作などの指示を出すことができる。これにより、遠隔操作で障害物を乗り越えることもできるし、監視カメラの注意を惹くこともできる。

巨大工場の中だけではなく、外に出ることも。荒廃しきった世界観が、正直なんだか嬉しい

 基本的に敵に見つかれば即アウトで、速攻で銃殺。水に落ちても死、道を踏み外しても死。獄卒や監視カメラを破壊したり反撃したりすることもできず、彼らの視線を恐れて逃げ回りつつパズルを解くしかないというストイックな内容だ。そんな恐怖のディストピアを描いたゲームではあるのだが、不思議なことにこのディストピア世界が妙に魅力的である。

 埃っぽくて暗く、古びた工場。いたるところに汚水がたまり、廃墟だらけの荒野。労働キャンプでは人間たちが地面を掘り返すことを強要され、独裁者を讃える放送には喝采を送らせられる。空気遠近法を踏まえて作られた『ブラック・ザ・フォール』の背景は、ディストピアもの特有の息苦しさと暗いワクワク感に満ちている。

 しかし、注意深く見てみると、そこかしこにこの世界を牛耳っている独裁者らしき顔がある。ポスターや額に収まった写真、テレビ放送の画面などに映るそのシルエットをよく見つつ、Sand Sailor Studioがルーマニアの会社であることを考え合わせると、その「独裁者」は一人しかいない。ニコラエ・チャウシェスクだ。 

テレビ画面や各所に置かれた肖像画に描かれているのは、どう見てもチャウシェスクの顔。だが作中で明言はされない

 チャウシェスクは戦前からルーマニア共産党にて活動。戦後ソ連による占領を経て共産党が政権を握った際には同国ナンバー2の位置に登り、1965年に書記長だったゲオルゲ・ゲオルギュ=デジが死去した後、1989年の革命まで長らくルーマニアの独裁的権力者として君臨した。妻のエレナ・チャウシェスクと共に贅沢三昧の生活をする一方で国民には耐乏政策として食料品の配給制度などを強制。さらに強制的人口増加政策として妊娠中絶を法律で禁止した。その結果食糧不足と相まってストリートチルドレンを数多く生み出し、さらに栄養剤がわりに輸血を奨励しつつ注射針を使いまわしたためルーマニア国内にはエイズが蔓延したという、20世紀の歴史に残る独裁者である。

 『ブラック・ザ・フォール』の作中に登場するポスターなどに描かれているのは、顔立ちを見る限りではどうやらこのチャウシェスクで間違いない。第一、ゲーム内には「鎌とハンマー」のマークが頻出し、ある場面ではマルクス、レーニン、スターリン、さらにチャウシェスクの前にルーマニアを牛耳っていたゲオルギュ=デジの肖像写真が並んで飾られている場所もある。『ブラック・ザ・フォール』では、これらの要素が声高に叫ばれているわけではない。Sand Sailor Studioはアクションパズルゲームとしてちゃんと遊べるものを作りつつ、わかる人にはわかる形で自国の暗い歴史に光を当て、プレイヤーにチャウシェスク政権時代のルーマニア国民の過酷さを追体験させる。ラストまでプレイすれば、ルーマニア革命の意義がちゃんと理解できるようになっている。

ゲーム中のある場面で出てくる廊下。右からマルクス、レーニン、スターリン、ゲオルギュ=デジの肖像写真がかかり、電話機の上には鎌とハンマーのマークが

 これにテイストが近いゲームとして、2017年1月にリリースされた台湾のインディーゲーム『返校』がある。これは1960年代の台湾に蔓延した思想弾圧、いわゆる白色テロを題材にしたホラーゲームである。学校に軍人の教官が常駐し思想的に危険なものを読んでいないか監視しているという当時の異常な状況を背景に、1人の少女が犯したある罪を巡って学校の中でストーリーが展開される。『返校』のデベロッパーは台湾の赤燭遊戯。こちらも自国の暗い歴史を題材としたゲームである。

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