デジタルインターフェイスを通じた表現の到達点ーー井上明人が語る『Florence』の素晴らしさ

 2月にリリースされた、ゲーム『Florence』。これはデジタル・インターフェイスを通じた表現のあり方として、一つの到達点といってよい作品となっていた。多くのクリエイターが悩みに悩み、試行錯誤を続けてきた問題の一つにクリアーな回答を示している。

 ゲームのストーリーは、フローレンスという女の子が、クリシュというチェリストの男の子に出会い、恋に落ちて……という、いわゆるガール・ミーツ・ボーイというような内容になっており、スムーズにプレイすれば1時間半ほどでクリアすることができる。プレイ済みの人も増えてきた時期と思うので、ネタバレも含みながら、本作の素晴らしさについて話をさせてほしい。

 ゲームをはじめると、プレイヤーは、目覚ましを止めて、歯を磨いて、SNSをチェックする――などの日常的な動作、あるいはもどかしい会話や思考などを、タップやスワイプという操作で次々にクリアしていくことになる。遊ぶためのインターフェイスは、その都度ごと、ほぼ毎回違っている。さまざまなインターフェイスを違和感なく、ひとつのパッケージのなかにまとめ上げていくというのは、とても大変なことだ。『HEAVY RAIN』(2010)でも、近い試みがされていて、『Florence』でも『HEAVY RAIN』でも、多彩なインターフェイスの手触りを楽しませるという点では一致している。だけれども、『Florence』ならではの点がいくつもある。

 まず、“異なるインターフェイスを次々とつないでいく”という観点からすると、ポイントとなる「区切りの演出」において『メイド イン ワリオ』に近いことをやっている点だ。『メイド イン ワリオ』は、「ここから別のインターフェイスのゲームが始まる」という区切りを演出するために、BGMのテンポやリズム、トーンを変え、シーンを切り替えて、というふうに音楽を含めた演出を行い、わかりやすさと爽快感を出している。こうした演出手法の系譜と、『HEAVY RAIN』的なインターフェイスと表現の一致を両立させている。

 そして何よりも、驚かされたのは、通常ならストレスになるような操作上の「違和感」を巧妙な演出として成立させていることだ。初代『バイオハザード』のラジコン操作を思い浮かべるとわかりやすいが、プレイヤーキャラクターの身体を操作する際に違和感があると、一般的にはストレスになる。

 インターフェイスの違和感は通常、なるべく気にならないように配慮される。もっともわかりやすいのは『Wii Sports』やKinectだ。『Wii Sports』であればプレイヤーが腕を振ることと、ゲームのキャラクターが腕を振ることは直接に関係している。ここではインターフェイスと行為の間に多少のズレはあっても、不一致はない。

 多くのゲームではインターフェイスの違和感をプレイヤーの「慣れ」によって意識させないことを目指している。『スーパーマリオブラザーズ』で「ジャンプ」をするという行為がなぜ「A」ボタンと結びつくのか、その対応関係に根拠はない。ゲーム製作者が勝手に決めたことだ。しかし不思議なもので、ボタンを押して遅延なく反応が返ってくれば、慣れによって「Aボタンでジャンプする」ことが、プレイヤーの身体の延長になっていく。いつのまにかボタンと行為の関係を学習できるような遊び場を作りあげ、気にならなくなるような手順を踏ませていくことが、一般的なゲームデザインのあり方だ。

 もっとも、インターフェイス上の違和感を逆手に取ってゲームの味わいとして魅せる手法もないわけではない。その演出はほとんどの場合、「私そのものではない身体」を操作しているのだ、という演出を通して達成されていた(ここでの「私」はプレイヤーそのものではなく、プレイヤーの操るキャラクターのこと)。たとえば、『ピクミン』ではピクミンたちの行動の制御が微妙に思い通りに動いてくれないもどかしさが味わいになるし、巨大ロボットを操作する『リモートコントロールダンディ』でも、女の子の腕をとって冒険していく『ICO』での女の子の行動制御でも、味わいとして演出されている。それは「私そのものではない身体」を操作するという設定によって、操作のままならなさを味わいとすることができていた。私でない身体がままならないのは当然のことだから、そこには説得性が生まれる。

 しかし、『Florence』の達成は、「他人の身体」のままならなさを表現したことではない。普通ならばストレスにしかならないはずの、「私の身体」のままならなさに扱ったことだ。「私の身体がままならなくなる」のは、通常時であればありえない。しかし、「私の身体」「私の思考」が制御できなくなるタイミングを表現することによって、インターフェイスが制御不能になることの意味をつくりだしていた。

 以下はネタバレになる。

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