プレイヤーの深層心理から固有武器を生成ーー『Last Standard』開発者・中道慶謙に聞く、インディーゲームの未来

 東京ゲームショウ2017への出展で脚光を浴びた、開発中の3D対戦アクションゲーム『Last Standard』。SNSとの連携でプレイヤーの心理を分析し、それをゲームに反映するという「サイコダイブシステム」は多くのゲームメディア、ゲームファンの関心を集め、完成版の発売に期待が集まっている状況だ。その開発者であり、京都大学在学中に独学でゲーム製作を始めたという中道慶謙氏(I From Japan)に、今も進化を続けている「サイコダイブシステム」の現在地から、インディーゲーム市場で一歩抜きん出るためのポイントまで、じっくり話を聞いた。(編集部)

ユーザー固有の“武器”を与える「サイコダイブシステム」

ーー中道さんが開発を進めている3D対戦アクションゲーム『Last Standard』は、昨年の東京ゲームショウに出展されて以来、注目を集め続けています。ポイントは何と言っても、ツイッターに投稿された文章からプレイヤーの性格、深層心理を分析し、固有の「武器」を具現化するという「サイコダイブシステム」ですが、こちらについてご説明ください。

中道慶謙(以下、中道):ツイッターだけでなく他のSNSやメールにも対応可能なのですが、そこで使われている言葉を言語学的に分析して、「Aさんはどんな考え方をする人か」というデータを大量に集めています。Aさん、Bさん、Cさんと、それぞれのモデルに合わせて武器の形状や使い方を設定しており、実際のプレイヤーについては、「Aさんに4%似ていて、Bさんに2%似ていて……」と、データベースと照合した上で、その比重に基づいた組み合わせで、その人に合った武器やモーションを決定するんです。

 ちなみに、いまは文章だけでなく、その人がSNSにアップした「画像」から、性格を割り出すという仕組みもテストしています。例えば、ツイッターで猫の写真をアップした時、猫がどこに、どういう風に写っていて、他にどんなものが写っているかーーというところから、その人の考え方を解析する。これについては海外の大学で新しい論文が出てきたばかりなので、これから検証していく、という感じです。

ーー新しい解析方法もテストしながら、性格分析の精度を上げていっていると。

中道:そうですね。ぼくらのチームにはディープラーニング、機械学習専門のメンバーは一人しかいないのですが、世界中の非常に優秀な人たちが日々、論文を出してくれているので、そういうものを参考にしながらテストを重ねています。すでに、ゲームにできるくらいにはシステムの開発は進んでいますね。

ーーSNSの解析について、「ボキャブラリー」ではなく、「言葉の使い方」を見ている、というのが面白いと思いました。

中道:言葉遣いを変えたつもりでも、言葉の使い方のクセは指紋のように変わらなかったりするんです。ボキャブラリーとしては乱暴な言葉を使うのと、優しい言葉を使うのとでは印象がガラリと変わりますが、そうしたSNS上の表面的な人格ではなく、より本質的な振る舞いを解析するので、「なりすまし」のようなものもそれなりに高い精度で見抜くことができます。ゲームにとどまらず、ゆくゆくは社会のインフラになるようなレベルまで突き詰めることができればと考えているんです。

『Last Standard』は“人間性能”がものを言うゲームに

ーー『Last Standard』の開発にあたって、いまはどんなことに注力していますか?

中道:「サイコダイブシステム」を目新しい“客寄せパンダ”のようにするのではなく、対戦ゲームとしてきちんと面白いものにする、ということに集中しています。武器とモーションのパターンが膨大になることもあり、対戦上、極端な有利・不利が出ないように、戦略性やランダム要素を含めたゲームバランスの調整が重要なんです。

ーーいわゆる“キャラ差”のようなものは、キャラクター数が限られた格闘ゲームでも慎重なバランス調整を要しますから、とても難しそうですね。

中道:めちゃくちゃ難しいです。例えば、生成された自分の武器がとても弱かったら、その時点でゲームをやる気にならないですよね。そういう理不尽感が出ないように、現状では2属性にそれぞれ3種類=計6種類の攻撃と、2属性の防御を組み込んでいて、相手の強み・弱みを見極めて戦い方を変えられるようにしています。似た武器を扱っても、使用する人によって戦い方に変化が生じる、ということが重要だと思うんです。

ーー見た目は似ていても、戦い方の質が変わる要素が用意されていると。

中道:そうなんです。プレイイングのスキルによる差はもちろん出ると思いますが、心理戦の要素が強くなりますね。また、極端なキャラ差は出ないように、とお話ししましたが、フェアすぎるのもまた違うかなと考えていて。つまり、本当にガチのゲーマーでなければ、一日何時間もかけて練習することはできないと思いますし、最初にプレイするときに、中級者くらいの人に何もできずに負けてしまうようなゲーム性だと、本当に楽しくなるまでプレイを続けることはできないと思うんです。そういう意味で、多少運が絡むようなアンフェアさは、きちんと考えていきたいですね。

ーー練習量より、戦略性やアイデア、相手への対応力など、いわゆる“人間性能”がものを言うゲームになるかもしれませんね。

中道:そうですね。人と人の勝負、ということは強調されると思います。そもそも自分にしか使えないキャラクターを作ることになりますし、そういう点では、ゲーム実況をするYouTuberのような方たちにも喜んでもらえるかもしれません。強いキャラクターになれば最高だし、扱いにくいキャラクターになっても、ネタになりますから(笑)。

ーー中道さんがハマったゲームに『ラクガキ王国』(タイトー)があると聞きました。プレイヤーが描いたラクガキを戦わせるゲームで、こちらも人のクセが対戦が変化するところが、『Last Standard』の楽しさと通じる部分があるのではと。これまでプレイしてきたゲームが血肉になっている、という感覚はありますか?

中道:ありますね。『ラクガキ王国』と『NHK 天才ビットくん グラモンバトル』(同じくタイトー)はめちゃくちゃ面白かったし、かなり印象に残っていて。とはいえ、僕自身はめちゃくちゃゲーマーというわけではなく、たまたま家にあって楽しくプレイしていた、という感じなので、ゲームだけでなくいろんなものから影響を受けていると思います。

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