海外の音楽シーンで“ジャポニズム”が流行中? 不思議で楽しい日本的MVまとめ
19世紀中頃、フランスの美術界では浮世絵などの日本美術が注目を集め、“ジャポニズム”と呼ばれる日本趣味が流行したことはよく知られているが、近年もまたファッションや音楽のシーンで日本的なエッセンスを取り入れる“ネオ・ジャポニズム”がクールとされているようだ。
クラブミュージック界隈で今、もっとも注目されているトラックメイカーのひとりであるUK発のMura Masaや、The 1975にフックアップされたことでその独創的な音楽性が世界中で知られるようになったThe Japanese Houseなどは、その名前からして日本的である。Apple MusicやSpotifyなどのストリーミングサービスが登場し、海外の音楽シーンの流行がさらにリアルタイムに感じられるようになってからは、その傾向はますます加速しているように思える。
そこで本稿では、日本的なエッセンスを取り込んだミュージックビデオを紹介していきたい。
カタカナMVの先駆け的存在?
おそらく、カタカナのテロップを意識的に取り込んだミュージックビデオの中で、世界でもっとも有名なのはKanye Westの「Stronger」ではないだろうか。2007年にリリースされた3rdアルバム『Graduation』に収録された同曲は、Daft Punkの「Harder, Better, Faster, Stronger」をサンプリングした大ネタ使いと、アルバムのジャケットを村上隆が手がけたことで大きな話題となった。
考えてみれば、Kanye WestとDaft Punkはともに大の日本びいきであり、Daft Punkは2003年に『銀河鉄道999』で知られる漫画家・松本零士とコラボレーションして、「インターステラ5555:THE 5TORY OF THE 5ECRET 5TAR 5YSTEM」というアニメーションオペラを発表しているほどである。しかも、Daft Punkはフランス人だ。
このミュージックビデオに影響を受けたクリエイターが現在、一線で活躍していると考えれば、日本的なエッセンスを取り入れた作品が増えているのは自然な流れなのかもしれない。
フリガナが楽しいカラオケ風MV
「Sukiyaki」や「Tenpura」など、日本語のままで他国に通じる単語は昔からあったが、最近では「Kawaii」や「Otaku」はもちろん、「Bukkake」などのいささか不適切な単語も通じてしまうという。「Karaoke」もまた、そのまま通じる単語のひとつで、アメリカCBSの深夜トーク・バラエティ番組『ザ・レイト・レイト・ショー・ウィズ・ジェームズ・コーデン』では、セレブたちが車内で歌う「カープール・カラオケ」というコーナーが人気を博しているそうだ。
そんな流行を受けてか、シアトル発の二人組トラックメイカー・ODESZAの楽曲「Higher Ground(feat. Naomi Wild)」は日本のカラオケ風のミュージックビデオとなっているのだが、面白いのはカタカナでルビが振ってあるところ。特に「tonight」に「ツナイト」と振るセンスがたまらない。
17歳の日本人少女がボーカルを務める多国籍バンド
続いて紹介したいのは、3月2日にデビューアルバム『Superorganism』をリリースしたばかりの多国籍バンド・Superorganismの「Everybody Wants To Be Famous」。17歳の日本人・Oronoがボーカルを務めるこのバンドは、イギリス、ニュージーランド、オーストラリア、韓国と、それぞれ国籍が異なるメンバーがインターネットを介して集ったという。Frank OceanやVampire WeekendのEzra Koenigが、Apple Musicのラジオで流したことで人気に火がついたというのも、極めて現代的である。
ミュージックビデオでは、どこかで見たことのある日本のキャラクターやゲーム画面がコラージュされていて、数年前に流行したヴァイパーウェイブ的なテイストも感じさせる。すました表情で飄々と歌うOnoroの姿も不思議な魅力に溢れているので、ぜひライブ映像などもチェックしてみてほしい。
逆輸入的Kawaiiカルチャー
最後に紹介するのは、Kero Kero Bonitoの「Forever Summer Holiday」。ロンドン在住の3人組で、ボーカルのセーラはイギリスと日本のハーフ。日本を拠点としていないにも関わらず、意識的に日本語詞を入れたことで、海外で人気に火がついたというから面白い。昨年は待望の日本デビューも果たし、『SUMMER SONIC 2017』にも出演した。
彼女たちはきゃりーぱみゅぱみゅから影響を受けたことを明かしており、その意味ではKawaiiカルチャーの逆輸入といえそうだ。
YouTubeやストリーミングサービスで気軽に世界中の音楽が楽しめるようになった昨今、紹介したミュージックビデオのように日本文化を新鮮な視点から捉えたグローバルな作品は、さらに増えていくのかもしれない。
(文=松田広宣)