落合陽一が語る、テクノロジーの進化とエンタメ市場の行方「本物を見抜く審美眼が求められる」

 パイを取り合うのではなくパイを広げる

ーー話は変わりますが、落合さんはSEKAI NO OWARIやONE OK ROCKといったアーティストと積極的にコラボレーションを行っています。落合さんの音楽を着るという発想から生まれた「WEARABLE ONE OK ROCK」をはじめ、プロジェクションマッピングやバーチャルリアリティがライブに利用されるなど、鑑賞側の楽しみ方も多様化しています。

落合:プロジェクションマッピングのように、音楽を劇場化する手法は増えましたね。もっと身体性に特化したものや、個別化したものもあれば良いなとは思います。空間スピーカーやヘッドフォンといったガジェットを効果的に活用するとか、ライブ会場ではななくレストランやクラブハウスのような限られたスペースを使うのも面白い。ただ、みんなポップなものを狙いにいくので、本当に良いものも埋没しがちです。埋もれないためには主流とは別の方法でポップなものを作らなければいけないし、受け取る側も本当に良いものなのかを見極める必要がありますよね。

ーー埋没しないためにも、落合さんのような別ジャンルのアーティストとコラボするんですよね?

落合:書籍の中でも“ブルーオーシャン(未開拓な市場)”の重要性を書きましたが、多様化社会が加速する今、各個人も違う方向へと進んでいくことが大切です。たとえば、液晶ディスプレイそのものを作るのはレッドオーシャン(競争の激しい市場)だけど、液晶ディスプレイを使って独自のブランド商品を展開していくことはブルーオーシャン戦略のひとつのやり方です。ひとつのパイを取り合うのではなく、パイを広げていくことを思考する。ジャンルの異なるクリエイター同士がコラボするのも、それと同じ意味を持つと思います。

ーー落合さんはコラボする際に意識することはありますか?

落合:僕はメディアアーティストなので、仕事はあくまで装置や現象を作ること。モチーフや作家性を持ってしまうとメディアアートではなくなってしまうので、コンテンツとの距離感には気をつけています。あとはコラボする対象に対する深い理解と造詣がないと厳しい。

あと、いつも学生には、ポップなものが作りたいのであればテレビやSNSで情報を収集した方がいいと教えています。一般の人と同じことを言ってはいけないが、世間の意見がわからなければ面白いものも作れませんから。

ーー鑑賞側はどのように向き合っていくべきでしょうか?

落合:作品が持つエモさ(感情の揺れ動き)を理解して、良し悪しを明示できる能力を持てると良いでしょう。ポップなものが量産されている時代だからこそ、本物を見抜く審美眼のような能力が求められます。(アメデオ・)モディリアーニと(パブロ・)ピカソの絵の区別がつくか、(フィンセント・ファン・)ゴッホが何年頃に描いた絵なのか判断できるか、芸術作品を知識ではなく雰囲気から読み解けるよう心掛ける。絵を判別するのはコンピューターの方が得意ですが、目の前にピカソ的でモディリアーニ的な新しい作品が出てきた時、それが良い作品だと言えるのは人間にしかできませんから。

ーー最後に、今後はどんな人物像が必要とされると思いますか?

落合:機械との差別化という意味でも、今後は外れ値のような行動を取れる人が優秀とされていくでしょう。ただ、他人と違うことをするのは非常にリスキーなので、そのリスクを取れるだけのモチベーションを持っている人が、時代に求められるのではないでしょうか。

(取材・文=泉夏音)

■書籍情報
超AI時代の生存戦略―シンギュラリティ<2040年代>に備える34のリスト
著者:落合陽一
出版:大和書房
発行:2017/3/18
定価:1,404円、200ページ

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