『耳をすませば』をいま劇場で観る意味 若者の夢をどう叶えていくかを考えるきっかけに

『耳をすませば』をいま劇場で観る意味

 『借りぐらしのアリエッティ』(2010年)とともに、スタジオジブリのアニメーション映画『耳をすませば』(1995年)が、4Kデジタルリマスター版として、期間限定でリバイバル上映されている。

 『耳をすませば』は、ジブリの他の人気作とともに、何度も地上波放送されている、国民的な映画として知られてきた。しかしそんな本作『耳をすませば』も、公開から31年目を迎え、かなり日本の状況も様変わりしている。ここでは、そんな本作を、いまあらためて振り返り、劇場で観る意味について考えてみたい。

 原作は、1989年に少女漫画誌『りぼん』で連載された柊あおいの同名漫画。繊細で可愛らしい絵柄による『星の瞳のシルエット』や『銀色のハーモニー』など、人気作品を手がけた漫画家・柊あおいだが、『耳をすませば』については読者の反応が芳しくなく、打ち切りのかたちになったのだという。

 それは、漫画『耳をすませば』が恋愛作品でありながら、読書や文学、主人公自身が日常のなかで見つける小さな発見など、恋愛以外の世界にも豊かな関心が広がっていく、野心作だったからでもある。恋愛に特化した内容が人気を集め、ジャンルが先鋭化されつつあった状況下で、そうした複合的な価値観が支持を受けづらかったのもあるのだろう。

 そんな特異な原作に目をつけたのが、宮﨑駿である。夏を過ごしていた避暑地で同作を偶然目にして、この広がりのある内容に魅了されたことで、長いあいだ映像化の構想を練って、ついに1993年に映画化の企画が具体化していったというのだ。

 映画化にあたっては、宮﨑自身は絵コンテを描き、高畑勲、宮﨑駿作品を作画の面で支えてきた近藤喜文が、本作の監督を手がけることとなった。近藤は、『未来少年コナン』で原画を担当したり、『赤毛のアン』、『名探偵ホームズ』では加えてキャラクターデザインも担当。その後もジブリ作品を含めた様々なアニメーション作品にかかわり、日本を代表するアニメーターとして活躍していた。しかし、47歳の若さで急逝したことで、本作が唯一の劇場映画の監督作となった。

 なかでも、高畑勲監督の『おもひでぽろぽろ』(1991年)でのキャラクターデザインは、その後のスタジオジブリの絵柄やイメージの方向性を決定するような独特な仕事となった。ここに、当時近藤の絵に影響を及ぼした、漫画家・高野文子からの間接的な影響があると考えられる。

 高野の絵は、非常にシンプルな線で描かれる。しかし、それは単に情報を省略した平面的なものではない。少ない線にもかかわらず、人物の身体には重量感があり、姿勢や動きにも立体的な実在感がある。アニメーションでは、一つのキャラクターを膨大な枚数で描き続けなければならない。線やディテールが多ければ、それだけ作画の負担も増えていく。一方、単純化しすぎれば、人物の個性や身体的な存在感が失われてしまう。高野の表現には、線を少なくしながらも、人物の立体感や重量感を損なわないという、アニメーションに通じる強みがある。

 こうしたテイストを含んだ近藤の仕事によってジブリの絵柄をかたちづくったことは感慨深いものがある。本作の主人公・月島雫をはじめ、他のキャラクターにも、そうした特性が際立っている。シンプルなデザインでありながら、作画やアニメーション自体の充実によって魅力を高めていく。それは、なかなか他のアニメスタジオでは実現しにくいアプローチだったといえよう。

 舞台となるのは、聖蹟桜ヶ丘周辺がモデルの一つといわれる、東京郊外のニュータウンを思わせる住宅地。坂道や住宅街、駅前、学校など、具体的な生活空間が描かれる。そこに暮らす少女たちの物語は、ファンタジー的な冒険というよりも、日常の延長線上にある、地に足のついたものとして描かれる。

 もちろん恋愛も重要な要素だが、あくまでそれは生活の一部であり、学校や家族との関係、自分の興味や将来への思いと並んで存在している。そうした描き方には、いま見ても現代的な感覚がある。恋愛を人生の中心に据えるのではなく、主人公自身の主体性や、自分の人生を自分で選び取ろうとする意志が、そこには強く感じられる。

 雫は、児童文学をはじめとする文学作品を読み、その物語世界に深く入り込んで楽しむことのできる少女。本の内容を知識として受け取るだけではなく、物語のなかに自分の想像力を遊ばせ、現実とは異なる世界を生きることができる。その意味では、同世代の流行や、周囲の人々が楽しんでいるものに自然と同調していくタイプとは少し違う人物として描かれている。

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