『南田南弁護士は天才肌』韓国版からの“脚色意図”を分析 比較でわかる両作の家族観
まず、新婦の背中のタトゥーのデザインだが、オリジナルでは仏像で、リメイク版では蓮の花である。どちらもパートナーの名前に着想を得たということだが、バックグラウンドを紐解くともう少し深い意味がありそうだ。韓国版で新婦が新郎の家族と知り合ったきっかけは、プロテスタント系教会の礼拝でオルガンを弾いていた彼女を、教会の長老(プロテスタント系において信徒から選ばれた代表者)だった新郎の祖父が見初めたことだった。公判の前準備として事情を聞きに来たヨンウへ、新郎は「自分よりも父がタトゥーを気にするし、祖父はキリスト教徒だから裏切られた気持ちらしい」と不満を口にする。実は韓国では、保守系プロテスタント団体がクィアパレードやイベントを妨害する事態がたびたび発生している(※)。こうした社会背景を考えると、新婦の親世代はあらゆる意味で強制的に敷いた人生のレールに娘を乗せようとしていたこと、その中で新婦が強く抑圧されていたことが浮かび上がる。
放送当時、「私はこの人と結婚する」と敢然と言い放ち愛する人と去っていく新婦の後ろ姿に、爽快感をおぼえたものだった。こんなふうに娯楽ドラマならではのシチュエーションを使いながらもあざやかな解決策を提示し、ヨンウを含め社会で不可視化されているマイノリティとその困難に目を向けさせる。だから『ウ・ヨンウ』は爆発的に愛されるドラマとなったのだ。
リメイク版の新郎に結婚までの事情を聞きに行くシーンで、南は突然、彼に結婚相手のことを愛しているかと訊ね、同行していた同僚の氷見(細田佳央太)を狼狽えさせる。オリジナル版では、ヨンウは新婦にしか同様の質問をしておらず、室内には新郎との写真が飾られていないことがヨンウによって指摘され、新婦が言葉に詰まるという描写で結末が暗示されるのとは異なる展開だ。そして、リメイク版のラスト、ひそかに裁判所を後にしていた新郎に対し、南は新郎のスマートフォンのホーム画面が新婦であることを指摘する。つまり、新郎は新婦を思い、自分以外に好きな相手がいることを知りながら黙っていた、という結末に変えた。
このフォーカスの違いは、日本が韓国に比べて、結婚が家同士の結びつきであるという観念が薄いこと、キリスト教を含め信仰と縁が遠いことによるものと考えられるが、もうひとつ、クィアを取り巻く状況も関係がある。たとえば制度面を一部比較すれば、日本では性的マイノリティのパートナーシップが東京都など33の都道府県で施行されているが、韓国は自治体レベルでの導入はされていない。日本でもクィアパレードは例年開催されているが、妨害が起きたというニュースも聞かない。こうしたことから『南田南』の作り手は、日本ではオリジナル版を踏襲しても新婦が置かれた抑圧的状況が弱く感じられてしまうため、スカッとした展開になりづらいと考えたのかもしれない。
だからといって「日本はクィアに理解がある」と胸を張って言えるほど、寛容で優しい社会だとも思えない。ドラマは社会の現実を映すと同時に、理想を見せて変化を促すことも可能だ。新婦と敵対していると思われていたはずの新郎をわざわざもう一度登場させたリメイク版は、マイノリティに対して「あなたのすぐそばに理解者はいるはずだ」というメッセージを込めたかったのではないだろうか。そして同時にマジョリティ側へは、祈りにも似た切実な要望のようにも感じられる。あなたの近くにハンディを抱えていたり、社会の少数派である人がいると分かっているのなら、どんな形でもいいから助けになってほしい。新郎が新婦を「愛している」がゆえにそっと送り出したように。
韓国内外で支持されたグローバルドラマのリメイク作として注目される宿命か、『南田南』は予告編の段階からオリジナル版と比較され、キャラクターやストーリー展開などについての考察や、否定的意見も散見された。たしかに、現時点ではオリジナル版ほど明確には社会問題に踏み込んでいないのかもしれないが、それをリメイク版の瑕疵としてしまうには早過ぎるように思う。日本社会の現状と問題点を見据えたアレンジにより、新たなウ・ヨンウとしての南田南を見せようとしていると、期待を持って見守りたいところだ。
参照
※ https://www3.wowkorea.jp/news/read/434798.html
■放送情報
『南田南弁護士は天才肌』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週月曜22:00〜放送
Netflixにて、各話地上波放送終了後に順次配信
TVer、カンテレドーガにて見逃し配信
出演:芦田愛菜、高橋文哉、細田佳央太、久保史緒里、柿原りんか、山口馬木也、平岩紙、角田晃広
原作:『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』(An Astory format)
脚本:田辺茂範、モラル
演出:三宅喜重、安川有果、洞功二、中田博之
プロデューサー:加藤春佳、本郷達也、三浦菜月美
音楽:末廣健一郎、MAYUKO
主題歌:muque「いいんじゃない」(A.S.A.B)
制作協力:MMJ
制作:カンテレ
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