『オレハコ』伊藤沙莉、『南田南』芦田愛菜ら 万能ではない“働く女性ヒロイン”の現在地

箱根駅伝を走る選手たちと、その熱戦をお茶の間に届けるテレビ局のスタッフたち。『俺たちの箱根駅伝』(日本テレビ系)は、2つの視点から箱根駅伝の舞台裏を描く群像劇だ。選手が襷をつなぐように、スタッフも仕事をつなぎ、1つの放送を作り上げる。そんな本作で、圧倒的な存在感を放つのが、伊藤沙莉演じる宮本菜月だ。
大日テレビのスポーツ局に所属する菜月は、箱根駅伝中継に並々ならぬ情熱を注ぐディレクター。豊富な知識と経験に裏打ちされた的確な判断力を持ち、上司にも物怖じせず意見する。ただ、職場の空気を読み、周囲と足並みをそろえることが社会人の心得だとすれば、菜月は少々厄介な存在かもしれない。第1話では、中継をバラエティー寄りに改革しようとする上層部の方針に反発。箱根駅伝の伝統を守ろうとする姿は頼もしいが、バラエティー番組を制作する人々の仕事を軽んじるような発言も飛び出した。そんな菜月をたしなめたのが、チーフプロデューサーの徳重亮(大泉洋)だ。仕事への誇りと、他人の仕事への敬意は両立する。徳重の言葉によって、菜月が気づかなかった視野の狭さが浮かび上がった。

もっとも、徳重は菜月の意見を頭ごなしに否定する人物ではない。過去の中継映像には、CMを入れるタイミングをめぐって2人が激しく意見を交わす姿が残されていた。立場は徳重のほうが上でも、菜月の判断に理があれば採用する。そこには、菜月の実力と徳重の信頼が表れている。
ところが、本格的にセンターディレクターとしての重責を担う立場になると、菜月は新たな壁にぶつかる。完璧な中継を実現しようとするあまり、新米ADの戸山知香(山田杏奈)に厳しくダメ出しを重ね、ほかのスタッフの仕事にも細かく口を出してしまう。技術チーフの桑名哲(河内大和)にまで指示を出し、先輩ディレクターの野村豪輝(浅香航大)とも衝突。誰よりも仕事に真剣だからこそ、周囲を信じて任せることができないのだ。徳重は、そんな彼女に「仲間の力を信じて任せること」の大切さを説く。
ここで菜月に求められるのは、周囲の顔色をうかがったり、愛想よく振る舞ったりすることではない。異なる専門性を持つ仲間を信頼し、チームを率いること。彼女の未熟さは、「女性らしい気遣いが足りない」といったステレオタイプな問題ではなく、リーダーとして向き合うべき課題として描かれている。仕事ができても、万能ではない。周囲から指摘され、悩み、自分のやり方を見直す。菜月は、優秀でありながらも発展途上な部分を残した、1人のリアルな社会人なのだ。

突出した能力を持ちながら万能ではない女性主人公は、近年のドラマでも印象を残している。例えば、前クールのヒット作『大空港~GATE24~』(テレビ朝日系)の主人公・森万智(趣里)もその1人だ。
特設ユニット「GATE24」に配属された税関職員の万智は、物品に詳しく、観察眼も鋭い。しかし、人とのコミュニケーションは苦手で、組織の慣習や周囲の思惑よりも、目の前のモノに対する好奇心を優先してしまう。わからないことを、わからないままにしておけない。その探究心が、見過ごされた真実を浮かび上がらせる。
面白いのは、万智が常識を打ち破ろうとしているわけではないことだ。彼女は純粋にモノが好きなのだ。海外の博物館で働いていた頃の万智は、細かなことに気づくたびに口を出しては、上司に叱られていた。そんな彼女の能力を評価したのが、GATE24の生みの親である杉原美都里(松雪泰子)だった。ある職場では欠点とされた特性が、別の場所では強みになる。万智は、「好き」を活かせる仕事と出会ったのだ。
とはいえ、万智も1人ですべてを解決できるスーパーウーマンではない。劇中では、仕事上のルールを破り、チームに迷惑をかけたことを謝罪する場面も。さらに恩人の杉原にある疑惑が浮上した際には、真実を知ることを恐れてしまう。そんな彼女の背中を押したのは、GATE24の仲間の言葉だった。自分の信念を貫くためにも、誰かの助けが必要になる。万智もまた、周囲との関わりの中で少しずつ成長していった。




















