『ブラッサム』“珠”石橋静河に足りないものとは? 東京編で見えてきた朝ドラ特有の課題

珠は保との恋によって、書くことにも情熱を注ぐ。珠の書く原動力は恋なのだろうと思わせる。黒崎は珠の書いた小説を読んで「無邪気に心をえぐりにくる瞬間があった」と言い、山中は「ただ器量のいい女給ではないと」と応じる。作家としての才能があり、器量もよく、いい助言をくれる著名作家とも知り合う。このあたりは朝ドラヒロインあるあるだ。多くの人気作を手がけてきたベテラン脚本家の構成力で、手堅くまとまっている。

ただ、まとまりすぎてもいる。モデルの宇野千代は、恋の相手を変えるごとに、書く題材や手法などさまざまなものを相手から吸収して、自分のものにしてきた人だと思う。いわばウワバミのような作家だ。作家とは概ねそういうところがあるものだが、いまのところ珠は巻き込まれ型として描かれていて、偶然が彼女を変化させていくように見える。「ふしだら」と言われてしまうような、ルールからはみ出していく人間のどうしようもない本能が、すべて理屈や言葉でまとめられてしまっているのがやや食い足りない。宇野千代はああ見えて実は豪快な人物を演じていただけではないか、という真説を目指そうとして、それが逆に小さくまとまってしまうように感じる。難しい部分だと思う。
従来の朝ドラの枠内で、ちょっとはみ出した主人公を描くのであれば、かなりの高得点だ。だが、せっかく宇野千代をモデルにするのだから、危ういところへ自ら惹かれていく人物像を朝ドラで見てみたい。まだ序盤なので、これまでの朝ドラの枠組みを超えられるかどうかは、これからにかかっている。もっとも、晩年の珠は加賀まりこが演じるのだから、安心は安心なのだが。

余談になるが、秋山は芥川龍之介を意識したキャラだ。作品名も『首』(「鼻」)、『蜘蛛の巣』(『蜘蛛の糸』)などともじられている。芥川の短編『葱』は、宇野千代と、彼女が東京の燕楽軒で働いていたときにつきあっていた今東光をモデルにしたもの。ドラマで今東光にあたるのは左らしい。彼との恋はドラマでは描かれないようだが、秋山は悠樂軒でふたりを見て、『葱』に代わる作品を書いたのだろうか。『里芋』とか。
さらなる余談。宇野千代が働いていた店の名前にある「燕」。石橋静河の代表作は『燕は戻ってこない』(2024年/NHK総合)だった。このときから、宇野千代をモデルにした役を演じる運命だったのかもしれない。
■放送情報
2026年度後期 連続テレビ小説『ブラッサム』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜から金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:石橋静河、加賀まりこ、松たか子、国仲涼子、渡部篤郎ほか
作:櫻井剛、小松與志子
主題歌:YOASOBI
制作統括:村山峻平、櫻井壮一
プロデューサー:大野陽平
演出:盆子原誠、中泉慧、佐藤玲衣、田中陽児、小林直毅、野田雄介
写真提供=NHK




















