カルトの狂気かポップな娯楽か? 三池崇史監督『バッド・ルーテナント:トウキョウ』の選択

『バッド・ルーテナント』日本リメイクの選択

 とはいえ本作、こうした過激な描写の数々が楽しめることで、海外のファンたちが狂喜乱舞しているのかと思いきや、そういう反応ばかりではなさそうだ。たしかに本作には、こうした暴力・異常要素が多い。しかし、それらが“異物”というより、制御された娯楽映画として浪費できてしまう部分もあるのだ。

 例えば、小栗旬演じる矢吹のキャラクター。彼はワルではありながら、どこか人が好く、自分の利益より困っている者を優先する存在として描かれている。ハーヴェイ・カイテルやニコラス・ケイジが演じたような、さらなるワルに比べると、さしずめダークヒーローの枠に収まる、アメリカ映画にも良く登場する、安心できる人物設計なのだ。

 そんな矢吹が、グウェンとともにクラブでチンピラたちと派手な殴り合いを始め、興奮した二人がホテルのベッドになだれ込んでいく展開は、大人向けの描写ではあっても、いかにも娯楽映画らしい楽しさに溢れていると感じてしまう。それは、ファンに望まれていたはずの“カルト映画”には必要ないものであったのではないだろうか。

 たしかに、リリー・ジェームズが出演するとなれば、クラブの喧騒のなかで大立ち回りを演じるような、分かりやすい見せ場を用意したくなるのは理解できる。とはいえ、そうした部分が、全体をポップなものに意味付け、消費させてしまうのも確かなことである。同様に日本を舞台に暴力描写を連続させた『ブレット・トレイン』(2022年)のような内容に近づくのであれば、それはオリジナル版やヴェルナー・ヘルツォーク版の『バッド・ルーテナント』の狂気には反する感覚だ。

 もう一つ問題なのは、アメリカの犯罪者や捜査官が、日本の警察とヤクザにまつわる世界観に効果的な影響を与えているとは言い難いところだろう。もちろん、何の意味もなくアメリカ人が登場してもいいかもしれない。しかし、FBI捜査官が日本の警察と合同で捜査するという展開ならば、さすがに文化的な差異であったり対立する部分、それを通して生まれる何かを、最低限でも設定しなければ、要素が浮いてしまう。ストーリー上の繋がりはあれど、矢吹というキャラクターが持つテーマとも、うまく繋がっていない。

 日本の歓楽街で快楽殺人を続けるアメリカ人が登場するといえば、村上龍の『イン ザ・ミソスープ』という小説があった。そこでは、書き手のアメリカへのイメージや日本社会への批判精神が色濃く投影されていたといえる。もちろん、そうした部分が妥当かどうかは別途検証が必要ではあるが、少なくとも本作の殺人描写や二つの国の文化的差異への見方は、これに比べると、エクストリーム表現をただ見せるためだったり、国際的な映画を撮る事情などに左右された結果のように見えてしまう。

 『バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト』や、2009年のヘルツォーク版は、真にカルト映画といえるような狂気が全編に漂っている。作り手自身が狂気に突っ込んでいこう、誰も見たことがない世界を見せようという本気を感じられる。だからこそ観客もまた、痺れるような異様な鑑賞体験ができるのだ。それに比べると、本作はどこか俯瞰的で、過激さをアトラクションのような娯楽として提供しているように感じられる。

 本作『バッド・ルーテナント:トウキョウ』は、娯楽映画として、『ブレット・トレイン』のように楽しめる作品であることは確かだ。しかしこれが、カルトとして知られるオリジナル版を再解釈した映画という意味合いで打ち出されたものなのであれば、そもそも全く性質が異なる、比べにくい作品に仕上がっていると理解するほかないのだ。

■公開情報
『バッド・ルーテナント:トウキョウ』
全国公開中
出演:小栗旬、リリー・ジェームズ、間宮祥太朗、リヴ・モーガン、野村周平、西野七瀬、向里祐香、岩田剛典、渡邊圭祐、中野英雄、村上淳、國村隼、舘ひろし(特別出演)
監督:三池崇史
脚本:天願大介
主題歌:Ado「Raven Sky」(UNIVERSAL MUSIC / Capitol Records)
製作:ジェレミー・トーマス、サム・プレスマン、北島直明、坂美佐子
製作幹事:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
制作プロダクション:OLM
配給:(日本)ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント、(北米)NEON
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公式サイト:https://blt-movie.jp
公式X(旧Twitter):https://x.com/blt_movie_jp

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