カルトの狂気かポップな娯楽か? 三池崇史監督『バッド・ルーテナント:トウキョウ』の選択

『バッド・ルーテナント』日本リメイクの選択

 日本で数々の話題作を手がけている、三池崇史監督。そんな彼の作家的な中核部分といえば、エクストリームなバイオレンス表現だろう。イギリスやアメリカなどで『DEAD OR ALIVE 犯罪者』(1999年)、『オーディション』(2000年)、『殺し屋1』(2001年)などが紹介されて以来、東アジアのカルト映画の代表的存在として、世界的な地位を確立しているのである。

 そんな「バイオレンスの巨匠」とも呼ばれる三池崇史監督が、東京・新宿の裏社会という、映画としてのホームグラウンドを舞台に、国際的な作品に挑戦した。それが、『バッド・ルーテナント:トウキョウ』である。これは、アベル・フェラーラ監督が1992年に発表した、ハーヴェイ・カイテル主演のカルト映画『バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト』のリメイクという、異様な企画である。

 なぜ、このような企画が成立したのか。そして、その内容は実際どうだったのか。ここでは、本作『バッド・ルーテナント:トウキョウ』の中身を振り返りながら、率直に評価していきたい。

 本作と『バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト』を直接的に結びつけたのは、映画プロデューサー、サム・プレスマン。彼はオリジナル映画のプロデューサーを務めたエドワード・R・プレスマンの息子である。この題材は、一度『バッド・ルーテナント』(2009年)というタイトルで、やはりエドワード・R・プレスマンが製作を担当し、ニコラス・ケイジ主演で“再解釈”されている。この両作、どちらも激烈に面白いので、エクストリームな表現や、“見たことがないもの”が見たい方はぜひ鑑賞してほしい。

 三池崇史監督は、そんなサム・プレスマンや、プロデューサー、ジェレミー・トーマスらのバックアップにより、日本を舞台に、ドラッグや暴力、ギャンブルへの依存や借金にまみれた汚職刑事を主人公にしながら、かなりの自由が与えられたという。

 ジェレミー・トーマスは、『ラストエンペラー』(1987年)をはじめ、数々の国際的な映画作品を手がけ、大島渚監督や北野武監督、そして三池崇史監督作の製作をするなど、日本の才能を海外へと繋げた名プロデューサーでもある。今年9月に亡くなったことで、本作が最晩年の作品となってしまったことは残念なことだ。この場を借りて、ささやかながら、この偉大な映画製作者の功績を讃えたい。

 三池監督は、映画業界の求めに応じて、さまざまなジャンルの作品を撮り分けている。エクストリームな内容もまた作家性だけでなく、Vシネマでの活躍のなかで必要な要素であった部分もあったはずだ。そして今回、久しぶりにそうしたバイオレントな特性が、主に海外からの要請で求められたということになる。そう思えば、日本のエクストリームな三池作品の観客も、懐かしくおすそ分けを楽しめるというものだ。

 小栗旬が演じる主人公・矢吹は、英語で話せたり海外の文化にも通じている敏腕なインテリ刑事だ。しかし同時に、ヤクザに大きな借金をすることで弱みを握られ、覚醒剤を摂取しながら返済のためにギャンブルにのめり込んでは負け続けている。職務に集中しないどころか、保身のために情報をヤクザに売り、各所で賄賂を要求する、最悪の人物でもある。

 そんな矢吹の前に、同じように進退が極まったFBI捜査官グウェンが現れる。演じているのは、『シンデレラ』(2015年)、『ベイビー・ドライバー』(2017年)のリリー・ジェームズだ。グウェンもまた型破りの捜査官であり、常識的な倫理の外にいる、ラフな態度が魅力的。彼女が矢吹を自分の捜査のバディに選ぶのは、同じアウトローの匂いを感じ取ったからだろう。

 そんなグウェンが追っているのは、アメリカの有力者の娘ミーガン。彼女は快楽殺人鬼であり、日本へは、寿司の味を楽しむとともに、日本のヤクザをベッドに連れ込んで惨殺する快感を経験しに来た。この異常な人物ミーガンをいきいきと演じているのは、プロレス団体WWE(ワールド・レスリング・エンターテインメント)の人気レスラー、リヴ・モーガンである。彼女のたくましい腕で、裸になったヤクザに強烈なパンチを打ち下ろしていく光景は、本作の暴力表現のハイライトであろう。

 こういったあたりは、三池監督と『オーディション』、『十三人の刺客』(2010年)で、話題となるエクストリームな表現を作り上げた天願大介ならでは、というところなのだろう。間宮祥太朗が演じる、殺した死体を“肉団子”に調理してしまう殺戮者の異常性もなかなかのものだ。

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