松岡茉優の芝居を引き出した“間接的演出” 三島有紀子監督が『男ともだち』の秘話明かす

第39回東京国際映画祭コンペティション部門に出品されている松岡茉優主演映画『男ともだち』が10月27日にヒューリックホール東京で上映され、上映後のQ&Aに監督の三島有紀子が登壇した。
千早茜の同名小説を原作とする本作は、男女の友情と寄り添うことの意味、そして自己を見失った女性が世界と向き合い直す姿を描いた人間ドラマ。集まった観客を前に、三島監督は「今回はできるだけ物語を排除し、肉体で繊細に感情を感じる映画を目指しました。撮り方も含めて非常に余白を作った新しい試みです」と挨拶した。
原作との出会いについて問われた三島監督は、パンデミック初期の2020年を振り返った。監督作『Red』の公開時に映画館の休館が重なり、次回作の撮影も中止となる中、自室でこの小説と出合ったという。
「人が人と寄り添うことがままならなかった時期に原作と出会い、『寄り添うとはどういうことなのか』を深く考えさせられました。もうひとつ、絵を描く主人公のカンナ(松岡茉優)が何を求めているのか分からず彷徨う中で、男ともだちと過ごす3つの夜を通して世界を見るようになる姿に、いま私たちが発信したいメッセージを込められると感じたんです」
映画化を一人模索していた三島監督だが、その矢先に面識のなかったプロデューサーの杉本雄介から突然「『男ともだち』を映画にしませんか」という連絡があったという。「まさに“神の見えざる手”に導かれたような運命的な電話でした。そこからスタートして今年でちょうど6年になります」と、作品結実に至る万感の思いを明かした。
緻密な音響演出について話が及ぶと、三島監督は日本映画の繊細な音表現への誇りを口にした。
「日本では虫の音をノイズではなく“声”と受け止めます。今作では、自然の音、息づかい、歯と歯が当たる音、唇が離れる瞬間の音まで全て繊細に録音し、演出として組み立てました。音声チームとの最初の打ち合わせは『今回は水のロードムービーだね』という一言から始まっています。映画館でしか体感できない音を妥協なく作りました」
また、撮影と照明についても言及。画面比率にシネスコサイズを採用した理由として、「神名とハセオ(成田凌)という2人の距離感を繊細に捉え、同じ時間を共有するように見せるためです。ずっと同じ方向を見ていた2人が、どこで向き合い対峙するのかをポイントに撮影しました」と視覚的な意図を語った。
三島監督は、作中で重要な意味を持つ「劇中画」の誕生経緯と、広島でのロケハン体験についても言及。
「神名が描く絵は、映画のメッセージを可視化する存在です。この映画ではハセオが神名を“見続ける”という行為が重要なキーワードになっています。広島で毎日当たり前のように原爆ドームへ手を合わせ、目を逸らさずに祈り行動する人々の姿を見たとき、いまの私たちに欠けているものはこれではないかと感じました。目を逸らさずに見つめ、祈り、行動する――その姿勢を作品に込めたいと考えたんです」
劇中画を担当した画家の田中千智については、「真っ白なキャンバスを一度真っ黒に塗りつぶしてから描き始めるというスタイルをお持ちで、ぜひそれを神名の作風として取り入れたいと依頼しました」と明かした。
神名役で主演を務めた松岡について、三島監督は映画『桐島、部活やめるってよ』の頃から注目していたという。「立ち姿や歩き方一つから役を組み立てる役者さん。神名は理解されにくい欲望を抱える人物ですが、松岡さん自身も表現に対する乾いた情熱をお持ちだと感じ、オファーしました」とキャスティングの背景を説明。
現場での演出においては、役者に直接指示を出すのではなく、周囲の空間設計や相手役を通じた“間接的演出”を徹底したと明かす。
「現場では場所や空間を整え、自然な動きが生まれる舞台を用意します。そして一番大きいのは相手役であるハセオ役の成田凌さんのお芝居です。松岡さんに直接演技指導をするのではなく、成田さんにそっと意図を伝え、成田さんの演技によって松岡さんの表情を引き出していくアプローチを取りました。今作での松岡さんの素晴らしい表情は、彼女自身の表現力と、成田さんの導くお芝居が重なり合った結果です」
最後に三島監督は「映画をこんなにも細やかに観てくださる皆さんと時間を共有できて幸せです。心に何か発見があったなら嬉しいです」と観客へ感謝を伝え、温かな拍手の中でQ&Aを締めくくった。

























