『豊臣兄弟!』の史実改変はなぜ賛否を呼ぶ? 『半沢直樹』に通じる八津弘幸の“攻めた”脚本

『豊臣兄弟!』“攻めた”脚本を分析

 もうひとつは周辺人物の描写を充実させることだ。タイトルからも明らかなように、物語は兄弟の二人三脚で進んでいく。実質的に、池松壮亮演じる秀吉とのダブル主人公といえる。兄弟のドラマとして構成することはストーリーを重層的にし、個性の異なる2つの感情のうねりが物語に推進力を生みだす。また、信長や市、明智光秀をはじめ周辺人物の描写を厚くすることで、視聴者は感情移入できるキャラクターを見つけることができる。群像劇の今作では有効な手法だ。こういった工夫は今作の随所にほどこされている。

 しかし、そこで問題になるのが史実とのギャップである。秀長のエピソードを膨らませるほど、周辺人物との関係にも触れざるを得ない。そうなると、史実から乖離する部分も出てくる。自由度を上げた結果、勢いあまって虚構が事実を侵食することになりかねない。

 八津自身は、歴史上の人物の生死などは変えず、その上で「攻めの姿勢」を貫いたと明かしている。フィクショナルな想像力をはたらかせなければドラマとして成立しない以上、無難な落としどころを探るより、ドラマとして面白くなる方向に舵を切ったのが今作だったと言えるだろう。

 問題になった描写について言えば、筆者はそこに八津の作家性があらわれていると感じる。浅井長政、武田信玄、柴田勝家、中川清秀ら名だたる武将の退場シーンは、キャリアの終焉という意味で現代の私たちにも通じる。命をかけて主君に仕える武士を現代に置き換えるなら、さしずめ終身雇用で会社に滅私奉公する昭和のサラリーマンだ。引責辞任、不慮の事故、病死、飛び降り、裏切り、競合への転職、同僚に出し抜かれたり、出世レースで敗れて会社を去るなど、相応するバリエーションが劇中で描かれる。

 八津は2013年の『半沢直樹』で、笑福亭鶴瓶演じる主人公の父を原作にない縊死として描いていた。また、同作では、登場人物のキャリアの挫折が印象的なエピソードとして挿入されていた。今作を“ビジネス大河”として観ることは可能であり、組織の中で追い詰められて運命が暗転する悲劇を、戦国の世に移したのが『豊臣兄弟!』とも解釈できる。

 痛快な下剋上ストーリーの今作は、実は「下剋上がうまくいかなかった話」である。秀長の死は、豊臣の治世の「終わりのはじまり」だった。その観点から見れば、今作は悲劇といえる。逆境を耐え抜いた徳川家康(松下洸平)が天下を獲る伏線も書き込まれており、豊臣のバッドエンドは既定路線である。今作は一貫して事業の挫折と終わりを扱っているのだ。

 『豊臣兄弟!』は挑戦的な作品である。作り手が令和の『太閤記』で描いたのは現代に通じる武将たちの生きざまであり、そこに盛者必衰のはかなさがあると言えないだろうか。

■放送情報
大河ドラマ『豊臣兄弟!』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/毎週土曜13:05〜再放送
NHK BSにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:仲野太賀、池松壮亮、吉岡里帆、浜辺美波、白石聖、坂井真紀、宮澤エマ、倉沢杏菜
大東駿介、松下洸平、中島歩、要潤、山口馬木也、宮﨑あおい、小栗旬ほか
語り:安藤サクラ
脚本:八津弘幸
制作統括:松川博敬、堀内裕介
演出:渡邊良雄、渡辺哲也、田中正
音楽:木村秀彬
時代考証:黒田基樹、柴裕之
プロデューサー:高橋優香子、舟橋哲男、吉岡和彦(展開・プロモーション)、国友茜(広報)
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.web.nhk/tv/pl/series-tep-P52L88MYXY
公式X(旧Twitter):@nhk_toyotomi
公式Instagram:@nhk_toyotomi

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