【倉本聰さん追悼】『北の国から ’83冬』が映し出す、残酷なまでに愛おしい人間の弱さ

『北の国から』の観られ方
少し余談だが、テレビを観ることができない場所で暮らす子供たちの姿をテレビドラマとして流し、それを観た多くの視聴者が感動していたという『北の国から』の観られ方は、今振り返るととても興味深い。
おそらく純と蛍が東京から来た子供で、後から自然の中で暮らすことを強いられるため、視聴者の年齢が純や蛍に近いほど、自分がこの世界の出来事を体験しているような気持ちになったのではないかと思う。
一方、劇中で語られる物語だが、おそらく未見の人が漠然と抱いている『北の国から』のイメージは、富良野の大自然と共生する貧しいながらも健気に生きる品行方正な家族の絆を描いた感動的なヒューマンドラマだろう。
そして根幹にあるテーマは、エコロジー思想を背景にした物質文明批判だと思われている方も多いのではないかと思う。
その認識はあながち間違ってはいないのだが、実際にドラマ本編から受ける印象は若干異なる。
本作の登場人物の多くは品行方正ではなく、何度も失敗を繰り返す弱い人間として描かれている。そんな人間の弱さを徹底的に描いた容赦のないドラマが『北の国から』だ。
『’83冬』の残酷ながら美しい名シーン
『’83冬』に戻ろう。700万円の借金の返済方法について五郎たち大人が悩む中、純たちは借金のことは知らずに無邪気に過ごしていた。しかし、草太兄ちゃんこと北村草太(岩城滉一)が、沢田松吉の孫娘・妙子(風吹ジュン)に、「正吉の母親の借金を五郎が肩代わりしたことが原因で、家を失うかもしれない」という話をしているのを、純と正吉は聞いてしまう。
このシーンの見せ方はドラマとして実に見事だ。
草太が妙子を口説く様子を盗み聞きしようとして車の荷物置き場に隠れていた純と正吉が偶然、借金の話を聞いてしまうのだが、話を聞いている時の二人の表情は映らない。
その後、車が止まってから純と正吉が車から出てくると茫然とした表情になり、吹雪の中を歩いて帰るところに純のモノローグが被さるのだが、こんなに残酷で美しいシーンをよく思いついたものだと圧倒される。
さらに凄いのが、松吉が山を売った金を借金返済に充てろと言ったのだと草太が話すと、妙子の表情が曇り、松吉は認知症で山なんてないと口にする展開だ。そして、松吉が東京で成功したというのも嘘だと判明する。つまり、子供も大人も老人も全員逃げ道がないことを本作は突き付けてくるのだ。
松吉の役を演じているのが、小津安二郎監督の映画などで日本人にとっての理想の老人像を演じ続けてきた笠智衆だというのがまた恐ろしく、倉本聰の老人に対する鋭い批評性が伺える。
壮大な自然の美しさに対して、人間はちっぽけでみじめな存在なのだというコントラストが『北の国から』の神髄だが、そんな人間の弱さを富良野の雪は全て覆いつくしてくれる。だから本作は人間に対して残酷で容赦がないのだが、同じくらい優しい。
最後に、冒頭でも述べたとおり『北の国から』は『’83冬』以降、断続的にスペシャルドラマが放送され、純と蛍が大人に成長していく姿を追いかけていくドラマに変わっていくのだが、各登場人物が今後どのような人生を迎えるのかを知っていると、『’83冬』にはまた違った面白さも出てくる。
スペシャルドラマのタイトルには、「83」「84」といった放送された時代が表記されており、それは現実と同じ時間が劇中でも流れていることを示している。つまり、数字が増えるごとに純と蛍は年齢を重ねていく。劇中で起こる、倉本聰が執筆したフィクションとしての物語と、「時間の流れ」が生み出す役者=登場人物のドキュメンタリー的な物語が同時進行し、交差していくのが『北の国から』の面白さだろう。
独立したフィクションとして観ても十分面白いドラマだが、現実の「時間の流れ」を踏まえた上で観ると、また違った魅力が見えてくる作品なのである。
■放送情報
倉本聰さん追悼特別番組 『北の国から '83冬』
フジテレビ系にて、10月9日(金)21:00~22:52放送
出演:田中邦衛、竹下景子、吉岡秀隆、中嶋朋子、地井武男、岩城滉一、今井和子、清水まゆみ、中沢佳仁、大犮柳太朗、ガッツ石松、風吹ジュン、林美智子、大滝秀治、笠智衆ほか
脚本:倉本聰
音楽:さだまさし
プロデュース:中村敏夫
監督:杉田成道
制作:フジテレビ
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