『踊る』シリーズ最大の異色作 『室井慎次 敗れざる者』が“高齢化社会”に問いかけたもの

高齢化社会が進む日本において、老人が主人公のドラマや映画は珍しいものではない。だが、若いときから観てきたキャラクターが老いて仕事をリタイアし、第二の人生を過ごす姿が観られる作品は滅多にない。
現代が舞台の『踊る』の世界には、私たちの現実と同じ時間が流れており、テレビシリーズが始まった1997年以降、視聴者は青島や室井と同じ時間を過ごしている。だから視聴者と同じように彼らも年を取る。2012年の映画でシリーズが一度終わり、12年の空白期間があるからこそ、『敗れざるもの』では「老いた登場人物に再会した」という実感が大きい。

青島や室井を憧れのヒーローとして観ていた人は、彼らの老いていく姿は観たくなかったのかもしれない。
だが、筆者は自身の老いや衰えを実感し、「あと何年、今のように仕事ができるのか」と不安を抱えているときに『敗れざるもの』を観たため、老いた室井の姿に自分の未来を重ねてしまい、最後まで目が離せなかった。
何より英断だと思ったのは、室井が結婚していなかったことだろう。もしも妻や子供と過ごす姿が第二の人生として描かれていたら、本作の印象はだいぶ違うものだったと思う。

高齢化社会において、生涯未婚で子どもがいないまま老人になる者は少なくない。その多くは1人で晩年を迎える可能性が高く、1人暮らしの老人がどのようにして社会と接点を作っていくかが、今後大きな課題となっていくことは間違いないだろう。
そんな中、室井は事件に巻き込まれた子ども達の里親となることで第二の人生を生きようとする。
劇中で室井は警察組織の改革に挫折し、青島との約束を果たせなかったと言う。
だが、後輩の警察官僚・新城賢太郎(筧利夫)を筆頭に、彼を慕うものは今も多く、室井の志は他の刑事たちに引き継がれていることが映画を観ているとわかる。
真面目で正しいが不器用過ぎるため、室井の生き方が万人にとっての処方箋になるとは思わないが、老いて家族がいない者にとっては、生き方の一例として参考に成り得るのではないかと思う。
長く続いてきた『踊る』シリーズだからこそ作ることができた、異色のヒューマン映画である。
■放送情報
『室井慎次 敗れざる者』
フジテレビ系『土曜プレミアム』にて、10月3日(土)21:00〜23:40放送
※地上波初放送
出演:柳葉敏郎、福本莉子、齋藤潤、前山くうが・前山こうが、松下洸平、矢本悠馬、生駒里奈、丹生明里(日向坂46)、松本岳、佐々木希、筧利夫、甲本雅裕、遠山俊也、西村直人、赤ペン瀧川、升毅、真矢ミキ、飯島直子、小沢仁志、木場勝己、稲森いずみ、いしだあゆみ
プロデュース:亀山千広
脚本:君塚良一
音楽:武部聡志
監督:本広克行
製作:フジテレビジョン、ビーエスフジ、東宝
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