アニメキャラはいつ“瞬き”しているのか? 韓国アニメ『縁の手紙』と日本アニメの違い

韓国アニメ『縁の手紙』と日本アニメの違い

 たとえば新海誠『秒速5センチメートル』内「桜花抄」の終盤で、電車に乗った貴樹が明里と別れる場面。目の大きさや眉毛の位置などが、2人の心情を詳細に物語る一方で、瞬きの描写はない。人間が30秒間一度も瞬きをしないのはやや不自然だ(この場面をまったく瞬きしないで観るのは少しつらい)が、だからといってこの場面が「瞬きがないから不自然だ」と感じるだろうか(人物が映らないカットも適度に挟まれる)。

 あるいは、新海誠と並んで「リアル」な演出に定評がある山田尚子の作品。『響け!ユーフォニアム』第1話冒頭で黄前久美子らが初めてのホームルームを迎える場面では、比較的多くの瞬きを観測できる。ただし、実際の我々のように常時まぶたを開閉しているというよりは、顔の向きや視線が変化する直前に一瞬だけ瞬きが差し込まれることが多い(アニメにおける定型表現になっているだろう)。そうすることで、動いているキャラクター=視聴者が注目するキャラクターが、あたかも生理現象として反射的に瞬きをおこなっているかのような印象が生まれるだろう。

 また、加藤葉月が担任教師に名前を呼ばれる際、返事の直前の一瞬のうちに2度瞬きを繰り返しており、この動きと挙手のスピードとが相まって、加藤がはつらつとした少女である印象を抱かせる。

 したがって、実際の瞬きが常時おこなわれているからといって、それが逐一アニメートされればいいというわけではない。要所要所に差し込まれる「演技」として瞬きはあるのだし、そもそもアニメキャラクターが長時間瞬きをしないからといってそれが「不自然」な状態とみなされるとも限らない。現実の我々は日常的に瞬きに意識を向けないからだ。

 瞬き、ないしはまぶたを閉じることを意識することがあるとすれば、たとえば必死にものを思い出そうとしているとき、怒りを鎮めようとしているとき、言いにくいことを発言する直前、予想外の出来事に呆気にとられるときなど、何かしら大きな感情変化が生じたときである。

 では『縁の手紙』における瞬きがどのように描かれていたかといえば、さして「エモーショナルではない」場面で、認識できるくらいゆっくりしたスピードでアニメートされていることがある。これを「不自然」だとして一蹴することは可能だが、しかしリップシンクの違和感に言語的必然性が見出せるのと同じように、この瞬きのスピードにも何らかの必然性が認められる可能性は常に残されている。

 私にとっての『縁の手紙』のように、普段慣れ親しんでいるリアリズムとは異なるリズムのアニメーションに出会うときに考えさせられることは、「認識しないが実在するもの」はどのようにアニメートされるのかということだ。瞬きはたしかに実在するけれども、『縁の手紙』で時折描かれているように、「まぶたの開閉の等速運動」のようには認識しないだろう。

 基本的にはそもそも認識しない運動であり、他人のそれを見たとしても、視認できるギリギリのスピードで過ぎ去るほんの一瞬の出来事だ。優れたアニメーターはこのような高速の運動に対して、動作の途中経過を意図的に「描かない」ことで間接的に「スピードをアニメート」する。ちょうど韓国人のyohanはこうしたことに極めて自覚的なアニメーターだが(※)、もちろん何が認識できないほどの速度で過ぎ去る出来事なのか、それがどれくらいのスピードなのかについては個人差がある。

 だからアニメーションのスピードに対して何か違和感を抱いたときは、(単にその作品が拙いというわけでなければ)他人の新しい世界認識を知る手掛かりとなる。何を認識していて、何を「認識しないもの」とみなしているのか。誰かのそのような身体感覚はコマ撮りの連続静止画としてアニメートされる。

参照
※ https://realsound.jp/movie/2026/09/post-2528631.html

■公開情報
『縁の手紙』
全国公開中
声の出演:矢吹奈子、小野賢章
監督:キム・ヨンファン
原作:チョ・ヒョナ『縁の手紙』(LINEマンガ)
主題歌:AKMU・イ・スヒョン「Your Letter」
制作:STUDIO LICO、STUDIO N
配給:コミックス・ウェーブ・フィルム
配給協力:KeyHolder Pictures
協力:CWF CINEMAS
2025/韓国/97分/ビスタ/カラー/5.1ch
©2025 LOTTE ENTERTAINMENT & STUDIO LICO & STUDIO N All Rights Reserved.
公式サイト:https://en-no-tegami.com
公式X(旧Twitter):https://x.com/en_no_tegami

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