『ラストノート』“葵”内田有紀の答えに凝縮された物語の核 それぞれが選び取った“幸福の形”
思えば、本作の登場人物たちは「こんなはずじゃなかった人生」を誰かに回収してもらおうとしていた。澄晴だけを見ていた莉奈(桜井日奈子)は、彼が葵を選んだ事実を受け入れられず、葵の会社にまで押しかけた。奥田(徳井義実)が葵に復縁を提案したのも、彼女への未練というより、思い描いた人生から外れてしまった者同士で、互いの孤独を埋めようとしていたのかもしれない。
なかでも、その思いに強く囚われていたのが眞澄(佐々木蔵之介)だ。妻を亡くした彼は、澄晴を育て、いつか自分の会社を継いでもらうことを生きる希望にしていた。だから澄晴が絵の道を選んだ時、自分の未来まですべて崩れたように感じたのだろう。その後、会社を潰し、働く先々でトラブルを起こしながら、澄晴を自分のそばに置いて縛り続けた。眞澄もまた、「こんなはずじゃなかった人生」を息子に回収させようとしていたのだ。
でも、最期は澄晴に自分の望みを押しつけるのをやめ、息子の選択を応援しながら穏やかな表情で旅立つ。思い描いた通りの人生ではなかったかもしれない。それでも、自分の意思で生き方を選び取った息子の成長を見届けたことで、自分の人生にも「これでよかった」と納得できたのではないだろうか。
葵と澄晴は確かに、良い影響を与え合っていたと思う。葵は花の香りを感じられるようになり、澄晴は一度は諦めた絵を描き始める。だが、離れた途端に元の自分へ戻ってしまうのであれば、それは自分の人生を相手に委ねていることにほかならない。だから葵は、「自分の力で香りを取り戻して、いつかあなたの前で心から笑いたい。並んで前を向いて、歩いていける。そういう二人になりたい」と澄晴に伝える。そうして二人はそれぞれの夢と向き合うため、いったん離れることを選んだ。
2年後、優子はスナックで仲間に囲まれながら、岩村と結婚式を挙げる。莉奈は保育士を目指しながら、龍太(草川拓弥)と愛を育んでいた。実家で両親のためにご飯を作る奥田のエプロン姿も微笑ましい。それは、叶わなかった理想を諦め、手近な幸せで妥協したということではない。誰かに自分の人生を埋めてもらうのではなく、今の自分が本当に大切にしたい人や夢を、自ら選び取ったのだ。
そして葵は花の香りを取り戻し、調香師として初めての商品を完成させた。さらに、かつての自分のように自信を失った人の背中を押す香水を作るため、会社を辞めてオーダーメイドのパフュームショップを開く。「これ以上、変化もサプライズもいらない」と現状維持を望んでいた彼女は、もういない。
一方、澄晴は海外での経験を経て、自分が画家として絵を描くこと以上に、斎木(白鳥晴都)のような才能ある若者を見いだし、支える仕事に挑戦したいと思うようになる。かつて誰かに背中を押してもらった二人は今、誰かの背中を押す側へと変わったのだ。
香水は、つけた人の体温や肌の水分、皮脂と混ざり合いながら変化し、やがてラストノートと呼ばれる最後の余韻へとたどり着く。同じ香水でも、誰の肌にまとうかによって残る香りは異なる。それは、人生も同じなのかもしれない。誰かと出会い、恋をして、夢を追い、時に思い描いていた道から外れながら、経験の一つひとつがその人自身と混ざり合っていく。その先に残るのは、誰かから見て正しい人生ではなく、自分にしか選べない、自分だけの幸福の形だ。
フラワーガーデンで再会した葵と澄晴は、もう相手がいなければ前へ進めない二人ではない。誰かに自分の人生を完成させてもらうのではなく、それぞれが自分で選び取った人生を持ち寄り、ただ好きだから隣を歩く。二人はようやく、あの日に思い描いた関係になれたのだ。それぞれが自分の香りを失わないまま、二人はこれから、隣で新しい香りを重ねていくのだろう。
■配信情報
木曜劇場『ラストノート』
Tver、FODにて配信中
出演:内田有紀、寺西拓人、坂井真紀、桜井日奈子、草川拓弥、徳井義実、佐々木蔵之介ほか
脚本:的場友見
演出:相沢秀幸、中前勇児
プロデュース:三竿玲子
主題歌:椎名林檎「裸」(EMI Records/UNIVERSAL MUSIC)
制作・著作:フジテレビ
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