『風、薫る』“亀吉”三浦貴大の“ダメ夫”ぶり再び? 劣等感と愛にまみれた忘れがたい人物
忘れがたい、あの“ダメ夫”が帰ってくる。
NHK連続テレビ小説『風、薫る』第24週に再び姿を現すのは、りん(見上愛)の元夫であり、環(瀧七海)の実父でもある奥田亀吉(三浦貴大)。視聴者にとっては約5カ月ぶりだが、物語では十数年もの歳月が経っている。りんを苦しめ、その人生を大きく変えた亀吉とは、どんな人物だったのか。改めて振り返りたい。
りんが亀吉のもとへ嫁いだのは、父・信右衛門(北村一輝)をコレラで亡くした直後のこと。18歳年上の亀吉は、飛脚から身を起こし、運送業で一代の財を成した人物だった。空模様を読んで的確な指示を出すなど、商才に恵まれた働き者だ。その一方で、大酒飲みでプライドが高く、家庭人としては大いに問題があった。
豪華な祝言を挙げながら、当の本人は初日から泥酔。「祝言なんてやりたくなかった」と不満を漏らした。奥田家になじもうと努めるりんに対しても、ことあるごとにつらく当たる。
その背景にあったのが、亀吉の強い劣等感だ。商売では成功を収めた一方で、自らに学や教養がないことを強く気にしていた。元家老の娘で学もあるりんの存在は、自らの出自や教養への引け目を刺激したのだろう。りんが仕事を手伝おうとしても、「おめえは奥にいろ」と拒絶。自分にないものを持つ妻を認めることができず、彼女を自分より下に置くことで、かろうじてプライドを保っていたように見えた。
環の誕生さえ、りんとともに喜ぼうとはしなかった。跡取りとなる男児を望んでいた亀吉は、生まれた子が女の子だと知ると「はぁ、女け……」と落胆。名前はどうするかと聞かれても「おめえの好きにすればいいべ」と突き放し、日々の世話もりんや母・貞(根岸季衣)に任せきりだった。
亀吉の酒癖の悪さは、ついに取り返しのつかない事態を招く。ある夜、酒に酔って暴れていた亀吉が行灯を倒し、その火が障子に燃え移った。しかも、家が炎に包まれると、亀吉は妻と幼い娘を守るより先に、貞と逃げ出したのだ。これが決定打となり、りんは環を連れて奥田家を飛び出した。
その後も亀吉は2人を捜し続け、ついには手の者を使って環を奥田家へ連れ去った。娘を取り戻しに来たりんから、なぜそんなことをしたのかと問われた際には、「そりゃあ、お前を連れ戻すために……」と言いかけている。方法はあまりにも強引で身勝手だが、亀吉がりんや環をどうでもいいと思っていたわけではないことがうかがえる場面だった。
しかし、離縁を申し出たりんに対し、亀吉は「離縁は構わないが、環は渡さない」と拒絶。いずれ嫁に出すのだから、環を女学校へ通わせる必要もないと言い張った。
「女に学はいらない」という考えは、男尊女卑が根強く残る当時の価値観を象徴するものだ。ただ、亀吉の場合、それだけではなかったように思う。商売では成功を収めても、頭ではりんにかなわない。そんな劣等感を抱えていたからこそ、りんの知性を認めることができず、その娘である環からも学ぶ機会を奪おうとしたのではないか。
そんな亀吉に、りんは「この家では、環は……女は幸せになれない」と告げ、自分の手で娘を育てるためにナースになると宣言した。最後は貞の言葉もあり、りんは環を連れて奥田家を去る。こうして亀吉との結婚生活に終止符を打った。