『ブルーロック』高橋恭平が見せた意外な“泥臭さ” 千切豹馬と重なる俳優としての覚醒
涼しげな表情に、キリッとした佇まいが醸し出すクールな雰囲気。高橋恭平はそういった役どころがよく似合う。
主役のひとりを務めた『ロマンティック・キラー』(2025年)にも、主演俳優としてタイトルロールを演じた『山口くんはワルくない』(2026年)にも、そんな彼の一面が収められていた。こうしたハマり役があるというのは、俳優にとって幸福なことだ。しかし、彼の俳優活動がアクティブなものになるにつれ、もっと違う一面が見たいと思っていた。たとえば、悔しさで表情が歪み、感情の爆発によって雄叫びを上げるような一面が――。
そしてついに、それが実現した。映画『ブルーロック』には高橋恭平というひとりの演技者の覚醒する瞬間が、たしかに収められているのである。
本作は、サッカーの“フォワード”のポジションに焦点を当てた青春映画だ。日本サッカーに足りないのは“エゴ”であるという考えのもと、「青い監獄(ブルーロック)」に全国の高校生フォワードたちが招集され、革命的なストライカーを発掘するためのデスマッチが展開していく。高橋が演じるのは、“才能の原石”のひとりである千切豹馬だ。
千切は掴みどころのないキャラクターである。ポーカーフェイスで、極端に口数が少なく、「青い監獄」で求められるエゴが希薄。主人公・潔世一(高橋文哉)らとともに在籍する「チームZ」は個性派揃いなこともあって、彼の特徴である赤い長髪以外、これといって印象に残らないだろう。高橋は演じ手として付かず離れずの状態で、ただそっと、この世界観に身を置いている。
原作に触れていない立場からすると、千切がどういう人物なのか、まるで分からない。そのうえ、物語の前半部ではたいした出番もない。ただただクールでミステリアスなキャラクターに、高橋の佇まいがマッチしているばかり。しかし、ときおりフレームに収められた無表情に近い表情からは、彼の内なる感情が微かに浮かび上がってくる。千切はいったい何を思い、この場にいるのか。私たち観客は彼に対し、静かに興味を育んでいくこととなるだろう。そしてそれに応えるように、物語の後半部では彼こそが“主役=ストライカー”の座に躍り出るのだ。
千切について“エゴが希薄”だと書いたが、ストライカーとしての彼のエゴは皆無に等しい。積極的にゴールを狙いにいくようなことがなければ、率先してボールを奪いにいくこともしない。サッカーのプレイヤーとしての自分に、千切は絶望しているのだ。彼はやめる理由を探しに、この「青い監獄」にやってきたのだという。
彼が自身の胸の内を語りはじめたとき、高橋はその佇まいとかぎられたセリフだけで、“過去に囚われ続けている人間”を表現していたのだと分かる。「チームZ」のメンバーの誰もがいまこの瞬間を生き、命を燃やしているのに対し、彼が生きているのは過ぎ去ってしまった時間の中。暗闇の中だ。だからほかの面々には体温の高さを感じるいっぽう、千切だけは冷え切っている。このことが分かったとき、千切豹馬は高橋恭平にとって、まったく新しいハマり役だと多くの方が感じたのではないだろうか。
しかし、やがて千切は覚醒する。彼の中に眠っていたアツい闘志が目を覚ます。ストライカーとしてのエゴが、“俺様”が、ついに目覚める。
詳述は避けるが、とある展開とセリフが千切という人間の心を揺さぶり、火をつける。演じる高橋からは涼しげなものが消え去り、それまでとは顔つきが明らかに変わる。しかしだからといって、表情を作り込んでいるわけではない。おそらくはその爆発した感情が、顔つきや身にまとう雰囲気にまで表れているのだ。そこにあるのはマンガ原作のクールでフィクショナルなキャラクターではなく、命を燃やしてゴールを目指す、人間そのものである。だからこれまでの高橋には感じたことのない、強烈な泥臭さを感じる。千切豹馬の覚醒が、俳優・高橋恭平をも覚醒させた。こんな瞬間に立ち会うことができるのが、演技者の動向を追い続けることの面白さ。その瞬間を見逃してはならない。
■公開情報
『ブルーロック』
全国公開中
出演:高橋文哉、櫻井海音、高橋恭平、綱啓永、野村康太、K(&TEAM)、青木柚、西垣匠、富本惣昭、倉悠貴、東啓介、畑芽育、窪田正孝
監督:瀧悠輔
脚本:鎌田哲生
原作:金城宗幸・ノ村優介『ブルーロック』(講談社『週刊少年マガジン』連載)
主題歌:Ado「モンストロ」(Capitol Records/ユニバーサル ミュージック)
制作:CREDEUS
製作:CK WORKS
配給:東宝
©金城宗幸・ノ村優介/講談社 ©CK WORKS
公式サイト:BLUELOCK-MOVIE.JP
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