『風、薫る』に忍び寄る戦争の足音 「戦争、本当にやってるんだ」が象徴する日常の変化

 NHK連続テレビ小説『風、薫る』第105話は、りん(見上愛)と島田(佐野晶哉)の別れから2年後の明治27年。日清戦争の直接的な引き金となった朝鮮出兵を政府が決めた年。ここから残り5週、25話で描かれていくであろう戦争パートに向けた序章とも言えるエピソードが描かれていく。

 その象徴とも言えるのが、軍人の吾郎(甲斐翔真)だ。軍人は家族に戦争の内情を話すことができないため、直美(上坂樹里)は吾郎がいつ頃、出征に行くのかを知らなかった。ある日、鼻歌で「埴生の宿」を口ずさみながら夕飯の支度をする吾郎が、「出征したら、ずっと炊事班長がいいなあ」とつぶやく。吾郎は天皇を護衛する近衛兵のため、出征の話はまだ先とはいえ、いつ話がきてもおかしくはない。動揺をかき消すように笑ってごまかす直美は、「やっぱり好きじゃない、軍人は。お国のためとか、どうでもいい。吾郎さんさえ……」と本音を漏らすと、吾郎が強く制した。

 また、直美が派出看護をしている遠藤平蔵(太田光)が戊辰戦争の生き残りであることが明かされる。背中に斜めに走る刀傷はそのときのものだ。命を助ける看護婦と戦をする軍人の夫婦。そう言われてみれば確かに直美と吾郎の組み合わせはユニークかもしれないが、直美自身は“似たもの同士”だと感じていた。元々、吾郎は生きていく道として軍人になり、直美もまた生きていくために看護婦になった。そんな直美に平蔵は「生き残るんだったら手柄なんか立てようとせず、じっとしてることが一番だ」とアドバイスを送る。次週、第22週「明るい未来」で直美の妊娠が分かり吾郎と喜びあう一方で、吾郎の出征が決まってしまう。生まれゆく命と死にゆく命――とは思いたくはないが、どうにも悲しい展開を想像してしまうのは筆者だけではないだろう。

 虎太郎(小林虎之介)は朝鮮にいる日本の部隊に薬を納める仕事を自ら志願していた。人ができないこと、知らないことをすればその分、上に上がることができると、虎太郎はツテも学もない自分がどこまで行けるのか試してみたいと、りんに話す。握手をして去っていく虎太郎の後ろ姿が印象的であり、ここは第104回でのりんの手を離す島田、さらにはりんが「虎太郎の手を握ればよかった」と後悔を抱いていた過去と対比になっているようにも思える。虎太郎にとっての双六の“上がり”が、この仕事であるならば、りんと一緒になれなかったことも含め、なんと切ない人生だろうか。

 帝都医科大学附属病院で看護婦取締を務める多江(生田絵梨花)は、広島の陸軍の病院に特志看護婦として行くことを決めた。それは、傷ついた軍人たちを看護し、看護の未来に貢献するため。第105話のラストには、久々に捨松(多部未華子)が登場した。屋敷のベッドに寝た患者を自ら看護している。

 ハッとしたのは、りんが何気なく口にした「戦争、本当にやってるんだ」というセリフ。それほど、まだ開戦に対して現実味がない段階であることが分かる。近年では2025年度前期『あんぱん』、2027年1月に劇場版が公開されることでも話題の2024年度前期『虎に翼』が、飢えや法律というそれぞれの視点から戦争を描いた朝ドラになるが、『風、薫る』では看護という立場から戦争の悲惨さを振り返ることになるのだろうか。

■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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