『ブルーロック』の実写映画としての革新性 観客を沸かしたストイックな職人的手法
絵心甚八の提唱するストライカー理論は、こうした村上龍の哲学が前提にあると考えられる。『ブルーロック』のセレクションにおけるゲームのなかで、エゴを剥き出したFWたちがボールに群がって、サッカー未経験の小学生たちによる「お団子サッカー」のような醜態を見せる箇所がある。そこで選手たちは、そうしたプレースタイルよりも、組織的な動きをして連携した方が得点の可能性がアップすることを、実地の経験で学ぶ。
一見、「それでは組織サッカーに逆戻りではないか」と思うかもしれない。だが、はじめから組織を前提とする常識を鵜呑みにすることと、必要に迫られて組織を作ることは、根本から異なるという考えが、ここでの趣旨なのである。それぞれが個として考え、常にゴールを狙いながらも、得点の確率を上げるためならばやむを得ずパスを選択するし、ときに守備にもまわる。そうしたプレーは、ある条件下では“エゴイズム”だと評価できる。ゴール前で自分の責任やリスクを手放すような消極的なパスとは、一線を画するからである。
中田英寿に代表される、ピッチを俯瞰的、空間的に捉える戦術的能力は、スポーツ漫画を劇的に変えたところがある。広い視野を利用した潔の特殊能力である“先読み”は、ストライカーにとっても大きな武器として機能し始める。身体能力に劣り、テクニックも平凡な潔でも、いち早く展開に反応することで優位な状況を作ることができるのだ。こうしたスポーツ理論は、サッカー漫画『アオアシ』をはじめ、バスケットボール漫画やバレーボール漫画に影響を及ぼしてもいる。
がむしゃらさだけではなく、常に論理的に考え続ける。そして、個としてリスクをとって勝負をし続ける。組織へのやみくもな献身を否定して戦う姿勢が結果を出す瞬間が、本作ではゴールという瞬間に結びつく。そんな興奮は、とくに低迷する日本社会に身を置く者にとっては、非常に痛快に映るのではないか。
本作は、原作漫画やアニメシリーズに、できるだけ忠実なスタイルで、雰囲気やビジュアルを再現することに注意が払われている。実写映画ならではといった箇所はかなり少ない。ストーリーの興奮を、できる限りそのまま詰め込んだといった印象だ。例えば、選手たちの身体にフィットするボディスーツの美しさなど、その創造性は、作品のポテンシャルを、その枠の上で最大限に発揮することに使われているように思えるのである。だが、そうしたストイックな職人的手法が、ここでは観客を沸かしたことも事実なのである。
心のなかの声をそのままセリフにしてしまう手法は、分かりやすい反面、映像表現としては手を抜いた演出として批判されることもある。だが本作は、そんなスタイルを受け入れた上で、そこを前提にして映像をリッチに、俳優たちの肉体の躍動を、説得力を持って描いていくことに注力している。この割り切りが、とくに続編が予定されているだろう、失敗が許されない本作にとっては重要だったのかもしれない。
そうした本作のクオリティの高さの源泉となっていると考えられるのは、これまで『キングダム』シリーズや『ゴールデンカムイ』シリーズ、『国宝』などを手掛けてきた制作プロダクション「クレデウス」が、講談社とともに生み出した「CK WORKS」と、金融機関や投資家などによる、国際競争力のある作品を生み出すための資金調達・資金提供を担うために設立された投資ファンド「Japan Creative Works」との連携にあるだろう。
製作費の安定的な確保だけでなく、従来のさまざまな企業が出資することで意思決定が複雑化するという弱点を持つ「製作委員会方式」と比べると、この方式は現場や会議の風通しが良く、成果物に与える不要なノイズを軽減することに繋がったのではないか。原作の魅力や哲学を素直に映像に反映させるという、近年増えているIP向けの作品づくりのなかで、この仕組みが非常に有利に働いたと想像できるのだ。それぞれが自分の利益と状況を分析し、その結果として最適な協力関係を作ったのだとすれば、その姿勢は奇しくも本作の理念と通底するのかもしれない。
おそらく、一作ごとに興行の反応を見て、また一から投資を呼びかけるような従来の資金調達に比べ、こうしたファンドによる製作体制では、より早く続編の制作が進められるという利点もあるだろう。本作はシリーズとして、この熱気が冷めきらないうちに続編が公開されることになるのではないか。こうした仕組みは、大作化と機を逃さない優秀な施策として、日本のIPビジネスのスタンダードになっていく可能性がある。それは、本作のファンや、漫画原作やアニメーションの実写化企画を望むファンにとっても望むところだろう。
■公開情報
『ブルーロック』
全国公開中
出演:高橋文哉、櫻井海音、高橋恭平、綱啓永、野村康太、K(&TEAM)、青木柚、西垣匠、富本惣昭、倉悠貴、東啓介、畑芽育、窪田正孝
監督:瀧悠輔
脚本:鎌田哲生
原作:金城宗幸・ノ村優介『ブルーロック』(講談社『週刊少年マガジン』連載)
主題歌:Ado「モンストロ」(Capitol Records/ユニバーサル ミュージック)
制作:CREDEUS
製作:CK WORKS
配給:東宝
©金城宗幸・ノ村優介/講談社 ©CK WORKS
公式サイト:BLUELOCK-MOVIE.JP
公式X(旧Twitter):BLUELOCK_MOVIE