『しあわせは食べて寝て待て』SPの“団地”はこうして生まれた 暮らしが宿る美術セットに潜入
2025年にNHKドラマ10枠で放送され、温かな世界観と団地で暮らす人々の温もりで多くの視聴者を魅了した『しあわせは食べて寝て待て』が、待望のスペシャル版として復活。
特集ドラマ『しあわせは食べて寝て待て~早春の養生編~』の放送に合わせて、本作の温かい団地空間を作り上げた美術担当の枝茂川泰生と平岡未帆に、暮らしが息づく滝山団地を参考にしたセットの裏側や、画面に散りばめられた小道具のこだわりなど、たっぷりと話を聞いた。
“団地のサイズ感”を忠実に再現
今回の特集ドラマは、連続ドラマ版の第6話と第7話の間の物語だ。時間軸がほぼ直結しているため、美術チームは前回のセットの世界観をそっくり忠実に再現することに力を注いだ。劇中の舞台となっているのは、東京都東久留米市にある滝山団地。室内や階段のセットを組む際も、現地の部屋に直接取材をし、採寸まで行ったという。
「団地は築数十年のレトロな部分が残っているので、その空気感を大切にしつつ、少し新しい部分も取り入れました。主人公のさとこ(桜井ユキ)の部屋はリノベーションした設定なので、ナチュラルテイストで少し北欧風の雰囲気に。一方の鈴さん(加賀まりこ)の部屋は歴史の積み重ねが感じられるよう意識して、ふたりのお部屋に差をつけています」
実際の団地を取材したこだわりは、部屋の細部にまで宿る。柱の幅や厚み、欄間の奥行きや天井の低さなどを実物に合わせて忠実に再現したことで、テレビドラマの一般的なマンションやアパートのセットよりも、だいぶ華奢で小さめのサイズ感に仕上がっているのだ。
制作スタッフが部屋に入るときに少し頭をくぐるような動作をするが、その小ささこそが「団地らしさ」の説得力となっている。
「窓の外には、滝山団地の写真を印刷した『遠見(背景幕)』を吊っています。レンズを通してみると本当にロケをしているように見えますし、実際に団地にお住まいの方が見学に来られた際も『滝山団地に戻ってきたみたい!』『同じ間取りだから家具の配置が勉強になります』と言ってくださって、すごく良かったなと思っています」
キッチンに隠された“遊び心と裏設定”
料理が大切なテーマとなっている本作。中でも薬膳料理を作る芝居が多いキッチンの空間は、美術部が一番に力を入れて大切に飾った場所だ。
団地を参考にしたレトロな吊り棚には、赤やオレンジ、黄色といった暖色系を差し色としてバランスよく配置。さらに、木製のお椀やスプーン、竹かごなどのナチュラル素材で作られた小道具や、さとこが愛用しているお気に入りの食器を並べることで、画面から温かい雰囲気を醸し出している。
また、熱心な視聴者が画面を観て楽しめる「小ネタ」の数々も仕込まれている。原作漫画に鳥をモチーフにしたものが多く登場することに合わせ、欄間の上や棚には鳥の小物をさりげなく飾り、調味料入れにも鳥の絵が描かれたものを配置した。
「劇中のスーパー『イスカ』のロゴ入りマグカップにも裏設定があるんです。冷蔵庫にイスカの景品応募キャンペーンのカードを貼っていて、1000円以上のお買い物でシールが1枚もらえて、たまるとマグカップがもらえる設定にしました。最初のほうはシールが1枚も貼っていなかったのが、話が進むにつれて増えていっているはずなんです。さとこの部屋にマグカップがあるということは、『全部ため切ったんだ』という遊び心を入れています。団地に長く住む鈴さんの家には、最初からマグカップが置いてあります」