ゾンビ映画としての『キングダム 魂の決戦』 万極の“怨み”vs.信の“夢”を読み解く
映画『キングダム』シリーズ5作目の『キングダム 魂の決戦』が、シリーズ5作連続となる興行収入50億円突破を達成して快進撃を続けている。今作から原作屈指の人気エピソード「合従軍編」が幕を開け、まずは主人公・信(山﨑賢人)が趙国の将軍・万極(山田裕貴)と対決する。その対決シーンについて、評論家の西山智則はこう語る。
「『キングダム 魂の決戦』では、万極や彼が率いる兵士たちがゾンビのように描かれているのが印象的でした。巨大な城壁の城内部に閉じ込もった秦国が戦う敵である万極軍は、かつて秦国によって生き埋めにされた者たちの身内で、恨みをもつ人間たちです。彼らは歩き方などゾンビのような動きを見せ、しかも何度斬られても立ち上がる。原作のほうでは、万極の背後に秦への恨みを抱えた者たちの生首が幽霊のように浮かぶという描写があります。『魂の決戦』は、これをゾンビ描写にふくらませるところに映画的な工夫がある。夏の定番『四谷怪談』のように、『この怨み晴らさでおくものか』は幽霊の原動力ですが、『魂の決戦』では怨みに動かされる巨大なゾンビ的集団が登場するのです」
なにを隠そう、エドガー・アラン・ポーの研究者である西山は、『ゾンビの帝国──アナトミー・オブ・ザ・デッド』(小鳥遊書房)などの著作で知られるゾンビ映画評論第一人者のひとりでもある。そんな西山から見て『魂の決戦』のゾンビ描写はどのように映ったのだろうか。
「ゾンビ映画というのは基本的に籠城戦映画なので、秦が函谷関の壁の内側を守ろうとする『魂の決戦』もその系譜に連なるのかもしれません。たとえば、ゾンビ映画史に革命をもたらしたジョージ・A・ロメロ監督の『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968年)では、黒人の主人公が一軒家に籠城しますが、家を包囲するゾンビはみな白人でした。これは、アメリカ映画の父とも呼ばれるD・W・グリフィスの代表作『國民の創生』(1915年)で白人たちが黒人に包囲され、小屋に閉じこもるクライマックスを反転させたものだとよく言われます。ロメロの次なる代表作である『ゾンビ』(1978年)は、主人公たちをショッピングモールに籠城させることで高度消費社会を描きました」
西山によれば、『魂の決戦』で描かれた「壁」も、ゾンビ映画の歴史で大きな意味を持つという。
「比較的最近のものだと、『ワールド・ウォー Z』(2013年)が印象的です。ゾンビ映画史上最大級の予算200億円が投じられたこの映画一番の見せ場は、イスラエル西岸地区の分離壁に洪水のごとく押し寄せるゾンビの群れです。歩く死体であるゾンビはもともと生/死の壁を融解させる存在ですが、そんなゾンビが実際の壁を超えて生者たちの領域へと侵入してくるわけです。また、厳密にはゾンビものではありませんが、外敵のモンスターを万里の長城で迎え撃つ中国・米国の合作映画『グレートウォール』(2016年)の描写もこの系譜のなかに置くことができると思います」