『Tシャツが乾くまで』『銀河の一票』『凪のお暇』 名作ドラマにコインランドリーあり?
“家事”が家の外に出る
混在は統計にも表れている。厚生労働省の統計によれば、1996年度に約1万228店だったコインランドリーは、2013年度に約1万6693店へ増えた。業界誌『ランドリービジネスマガジン』(ゼンドラ)の推計では、現在はおよそ2万5000店とされる。一方でクリーニング店は、2012年度の約11万8188施設から2022年度には約7万6300施設へと35%近く減っている。かつて銭湯に併設され、学生や社会人男性の利用が多かったコインランドリーは、いまや共働き世帯の家事時間を肩代わりする設備になった。
『Tシャツが乾くまで』の設定は、その変化を正確になぞる。咲子は結婚情報誌の編集者で、毎月第3金曜日が校了日。充の喫茶店「ひこうき」は金曜が定休日だ。妻が休む土日ではなく、妻が最も忙しい曜日に店を閉める。休日の重ならない夫婦が、それでも家事を分担しながら暮らしていた。
誰が家事を担っていたかは、平時には見えない。担い手がいなくなって初めて可視化される。乾燥機の不調という些細な出来事から動き出すこのドラマが、フィルター掃除という誰も褒めない作業を物語の中心に据えたのは、そのためだろう。
私的な生活の隣で、公的な話が始まる
コインランドリーは誰でも入れる。入るのに金も資格もいらず、24時間開いていて、店員もいない。誰も排除しない場所で、いちばん私的な洗濯物が人目に晒される。
だからここは、公と私が接触する場所になる。『銀河の一票』で、元幹事長秘書の五十嵐隼人(岩谷健司)が「よろず困りごと相談所」を営んでいたのは、親から相続した銭湯の裏にあるコインランドリーだった。集まってくるのは、助成金の申請に困る人や、母への仕送りで奨学金の返済に行き詰まった若者である。都知事選という最も公的な事柄が、洗濯という最も私的な行為の隣で立ち上がる。
その五十嵐は、茉莉(黒木華)たちの選挙協力を最初は断る。生活困窮者向けの政策は票にならないから外すーー茉莉が口にするそのセオリーは、もともと五十嵐が彼女に教えたものだ。だが、秘書の職を失って落ちるところまで落ちた彼を助けたのは、かつて自分が切り捨ててきた側の人たちだった。いまはその隣にいるから、排除する茉莉たちを手伝えない。自分が書いた選挙の定石と、定石から零れ落ちる人々が、ひとつの店の中で同居している。
なお、この相談所のロケ地となった町田市のコインランドリーは、『凪のお暇』の撮影にも使われたとされる。主演はいずれも黒木華。同じ建物が、会社を辞めた女性の再出発と、選挙の相談窓口を引き受けていたことになる。
孤独を保ったまま、他人と居合わせる
ここでは他人と同席しながら、関わらないでいることが許される。
『冬のなんかさ、春のなんかね』の文菜は小説家で、冬の夜、ノートに言葉を書きながら洗濯を待っている。そこへ、店の乾燥機が壊れて来ていた美容師の佐伯ゆきお(成田凌)が現れる。イヤフォンから漏れていた音楽が、会話のきっかけになる。監督・脚本の今泉力哉が繰り返し描いてきた近づきすぎない距離が、この場所にはもともと備わっている。
『みなと商事コインランドリー』は、居場所としての性格を前面に出した作品だった。都会のブラック企業で体を壊して地元に戻った湊晃(草川拓弥)が、祖父から継いだ古い店を地域に愛されながら営んでいる。そこへ客として現れた高校生の香月慎太郎(西垣匠)に、湊がゲイであることを知られたところから、二人の関係は動き出す。年齢も性別も脇へ置ける場所として、この店は設計されている。
乾くまでの時間を、どう使うか
洗って乾かす行為がやり直しの比喩として使われてきたのは、日本のドラマに限らない。映画『マイ・ビューティフル・ランドレット』(1985年)で、パキスタン系移民の青年オマールは、叔父から任された赤字のコインランドリーを、幼なじみのジョニーと立て直そうとする。ジョニーはかつて右翼に傾き、移民を差別していた側の人間だ。人種と階級とセクシュアリティの歪みが、その一軒に流れ込む。ジョニーを演じたのは20代のダニエル・デイ・ルイスである。
アカデミー賞7部門を獲得した『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2022年)で一家が営むのもコインランドリーだった。日本では『Laundry ランドリー』(2002年)が、祖母の店で洗濯物が盗まれないよう見張り続ける青年テル(窪塚洋介)を主人公にしている。『ドキュメント72時間』(NHK総合)がニューヨークのコインランドリーを撮った回では、住宅事情から洗濯機を持たずに暮らす人々が、人種も国籍も越えて同じ店に集まっていた。取材者がただ座って待つだけで人生が集まってくる場所を、ドラマの作り手が放っておくはずがない。
ただ『Tシャツが乾くまで』が新しいのは、その時間に限りがあることをタイトルに掲げた点だ。洗濯物はいつか乾く。乾いてしまえば、そこに留まる理由はなくなる。咲子と樹生が共有しているのは真相のわからない宙吊りの時間であり、それは乾燥機のタイマーと同じで、いつか止まる。
止まったあとに何が残るのか。それを見届けるために、金曜の夜、私たちは画面の前で待っている。
■放送情報
金曜ドラマ『Tシャツが乾くまで』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
U-NEXT、Netflixにて配信
出演:蒼井優、中島歩、高橋文哉、夏帆、松山ケンイチ、リリー・フランキー、臼田あさ美、齋藤飛鳥、庄司浩平、久保田薫、飛永翼ほか
脚本:生方美久
演出:土井裕泰、塚本連平、小牧桜
音楽:haruka nakamura
主題歌:スピッツ「見知らぬ糸」(Polydor Records)
プロデューサー:千葉行利、宮川晶
製作:ケイファクトリー、TBS
©TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/tshirt_ga_kawakumade_tbs
公式X(旧Twitter):@tshirts_tbs