『キングダム 魂の決戦』が“もう一つの山場”として描いた「合従軍編」 万極の存在を深掘り
中国史の春秋戦国時代を舞台に、中華統一を目指す若い王と、“天下の大将軍”を志す少年の躍進を描く、人気同名漫画原作の実写映画『キングダム』。日本映画として破格のスケールと熱量で支持を集めてきた本シリーズは、興行的な成功を重ね、内容をスケールアップしてきた。そんなシリーズの第5弾となる最新作『キングダム 魂の決戦』が公開された。
前作『キングダム 大将軍の帰還』が、大将軍・王騎の壮絶な最期という、物語上屈指の山場を描き切り、ひとつの到達点を示しただけに、ここで新たな一手が注目されていた。そんな本作『キングダム 魂の決戦』が提示した答えは、もう一つの山場として人気のある「合従軍編」を持ってくることである。
秦国の大将軍・王騎(大沢たかお)の喪失を振り返る冒頭……彼からその巨大な矛と魂を受け継いだ信(山﨑賢人)が、千人将へと昇格していく展開が、流れるように表現される。だが、その成長の裏では、隣国・趙の天才軍師・李牧(小栗旬)の暗躍により諸国が手を結び、秦を滅ぼすための「合従軍」を結成していたという、衝撃的な状況が明らかになる。総兵力50万以上という圧倒的な軍勢が、信と嬴政(吉沢亮)に、これまでにない脅威として迫りくる。追い詰められた秦国は、首都・咸陽(かんよう)防衛のための戦力を結集。巨大な要塞「函谷関(かんこくかん)」を防衛線とし、決死の戦いを始めることになる。
まず驚かされるのは、前作『大将軍の帰還』からのストーリー展開における、大胆な再構築である。原作において王騎の死後に描かれる「山陽攻略戦」は、まるまる省略。信が同世代のライバルと競い合い、敵将と死闘を繰り広げるといった成長を描くエピソードを、冒頭の説明部分に圧縮し、そのまま「合従軍編」へと移行したのだ。
これまで基本的に、原作に近い流れで進んできたシリーズだけに、「山陽攻略戦」でのさまざまな見せ場が見られなくなったことは、ファンにとっては残念かもしれない。とはいえ、信の目標として大きな求心力と強烈なインパクトを発揮してきた王騎の最後のエピソードの後では、本作のような刺激的なエピソードが欲しかったというのが、正直なところだろう。また、取捨選択なくしては、大作シリーズとして冗長にならざるを得ないはずだ。今回の決断は、さまざまな点で妥当だといえよう。
その結果、観客は一気に緊迫した戦場に放り投げられることになった。混戦のなかで、将軍が指揮する軍や、武将の率いる部隊が、それぞれに考えをめぐらせながら有機的な動きを見せ、刻々と戦況が変化していくというのが、『キングダム』シリーズの醍醐味だ。不安を煽る大軍同士の睨み合いから、信の奮戦はもちろん、麃公将軍(豊川悦司)や騰(要潤)、新世代の蒙恬(志尊淳)や王賁(神尾楓珠)が躍動する。
さらには敵方の、臨武君(一ノ瀬ワタル)、媧燐(三吉彩花)、汗明(勝矢)という強烈キャラクターも続々登場した。ちなみに一ノ瀬ワタルはかつて本シリーズで他の役柄を演じている。豪傑役を演じる俳優の、現在の日本映画における貴重さを意識させられる点である。
そんな個性的な敵のなかでも異彩を放つのが、趙軍の将・万極を演じた山田裕貴のエキセントリックな怪演である。白髪の裏側から覗く怨念に満ちた眼差し。そして奇怪な話し方が醸し出す、その不気味な存在感は、豪華俳優陣が集結する本作において、クライマックスの対決の敵役として、不足のないように設定されている。