サイエンスSARU『攻殻機動隊』は“原作”をどこまで再現? 押井守版やPS版と比較検証
最も原作の漫画らしいと評判のTVアニメ『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』(以下、『攻殻』)。話題の『天幕のジャードゥーガル』と同じサイエンスSARUが手がけた映像は、確かに士郎正宗の漫画の雰囲気を強く残している。ずらりと居並ぶ歴代の映像作品と比べて、最も新しい『攻殻』は何が違い、そしてどこに向かうのか。
草薙素子が水滴のような汗を垂らして頬を赤らめる。バトーが表情を崩して笑い、荒巻部長は口を尖らせ、オペ子は敵の攻性防壁を食らって目を見開く。そして、内務大臣は自分の拳を顔面に叩き込む。士郎正宗が漫画『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』に描いた表現のことごとくが、アニメとなって動きも色も音声もついた形でディスプレイから繰り出される。
フチコマでもロジコマでもないタチコマが登場して走り回っては、耳が割れそうになるキンキン声でマシンガントークを繰り広げる。メカゆえにないはずの表情までしっかりと見せてくれる新作『攻殻』に、これを観たかったのだと拳を握りしめた士郎正宗のファンも多かっただろう。
ストーリーも原作準拠だ。ニューロチップの拡大図像を冒頭に置き、政府高官を取り込もうとしている外交官を、素子が窓の外から射殺して高官の亡命を妨害するエピソードや、素子やバトーといった面々が、桜の24時間監視を中止し、公安の荒巻部長の指示で救済センターへと乗り込み、密かに洗脳が行われていたことを暴くエピソードなど、漫画で読んだストーリーが次から次へと繰り出される。
原作全部盛り。それが、原作の発表から37年経ってようやく実現したのだから、ファンが喜ぶのも当然だ。壁を走るケーブルに鰐口クリップを挟んで有線で情報を吸い取ろうとする、無線通信の発達した現在から見ると古めかしい描写までそのままなところはご愛敬として、衣装や銃器、車輌などのメカニックの描写では、当時は先鋭的だったデザインをそのまま踏襲して、新しさと懐かしさがない交ぜになった不思議な感情を誘い出す。
素子が外交官を射殺し、光学迷彩によって姿を消しながら落下していく場面も、漫画と同じ横から捉えたショットを入れた。ただし、落下しながら上を見上げる素子の顔が正面になっているところは、押井守監督の映画『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995年/以下、『GIS』)に倣ったところがある。素子の落下シーンが、神山健治監督の『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』(以下、『S.A.C』)や、スカーレット・ヨハンソンが主演した実写映画『ゴースト・イン・ザ・シェル』にも受け継がれるくらい、作品にとって象徴的なヴィジョンとなっているだけに、あえて寄せつつじっくり見せたのかもしれない。
その意味で、アニメ映画『GIS』や続編の『イノセンス』(2004年)、TVシリーズ『S.A.C』などから『攻殻』に入ってきたファンの関心も誘うものになっている。何よりネットワークでありAIといった原作で予言されたテクノロジーが、今まさに日常となっている時代に生きている人たちにとって、原作が描かれた冷戦時とはプレイヤーが変わっても、依然として繰り広げられている諜報や謀略のエピソードは、しっかりと届くものだと言える。