1990年代のような恋愛映画は現代で成立するのか? 『オフィス・ロマンス』がぶつける問い

 しかし、こういったテーマが、現代において反発を受けるのは避けられないだろう。#MeToo運動が盛り上がったのは、そもそもさまざまな職場で不適切な行為が放置されていたからである。だから、職場においてそうしたアプローチが厳密に排除されるような施策は、女性たちが会社で通常の業務をおこなうという、当たり前の望みを助ける最低限のルールになり得るからだ。

 おそらくそうした批判を想定して、本作は冒頭のシークエンスにおいては、女性の観客の共感を誘おうとする描写が用意されている。それはジャッキーがビジネスの商談の席で、相手から執拗に個人的なアプローチを仕掛けられるという箇所。ここで描かれる、極力攻撃的にならないように、しかし毅然とした態度でなされるジャッキーの拒絶には、親密さの強要や権力勾配を利用したハラスメントに対する、現代的なサバイバル術としてのリアリティが宿っているといえよう。

 この時点において、エア・クルーズ社が敷く恋愛禁止規定は、個人の自由を縛る悪法ではなく、労働者の尊厳を守るためのルールとしての存在意義を見出せる。それがのちに逆に障害となるのは、ダニエルがあくまで誠実に、ジャッキーを尊重しながら接する人物として設定されているからだろう。つまり、ハラスメントと純粋な恋愛感情は分けて考えた方がいいのではないかということだ。それは、そうだろう。しかし問題は、そのような線引きをどのように引くことができるのかという点なのではないか。

 劇中でダニエルは、プライベートな話をしたがる社員との会話や、急に産気づいた社員のお産を手伝うというシチュエーションに戸惑うことになる。社内の規定を守るためには、そうしたセンシティブな要素にかかわってはならない。そのようなルールがあることで、逆に従業員同士の不利益が生まれているといったケースを、ここで描いている。

 だがそれらのエピソードは、ルールが邪魔になる場面として、わざわざ恣意的に選ばれているようにも見えてしまう。この合間に、規定があるおかげで誰かがハラスメントから守られるケースを描くこともできたはずで、それが一つでもあれば観客は、「やはり人権のためにこうしたルールはあった方がいいのではないか」と結論づけるのではないか。それほど本作で設定された、“社内での恋愛禁止のルールが人間性を抑圧している”という一面的なロジックは、砂上の楼閣に過ぎないと感じられるのだ。

 それだけに、最終的にルールを否定することによって人間性が回復されるといった、予想された結末は、観客によっては不満がたまるものに感じられるのではないだろうか。問題は、本作が現実の社会問題に触れるような手つきを見せつつ、それを中途半端に扱い、ロマンスの障害として描いてしまった点にあるだろう。軽いコメディであっても、楽しいラブロマンスであっても、現実に横たわる問題に言及する以上、そこで踏みつけられるかもしれない存在を軽視するべきではない。

 奇しくも近年、1990年代後半から2000年代初頭に流行したファッションやカルチャーがリバイバルされた「Y2Kトレンド」が、Z世代を中心に注目された。当時を知らない若者たちが、現在では失われていた独特でポップな空気を求めたのである。そういう意味において、本作『オフィス・ロマンス』もまた、Y2K的な要素を感じさせるものとして、JLo世代は懐かしく、若い世代は新鮮なものとして受け入れられる可能性があったかもしれない。

 しかし、あくまでファッションのリバイバル現象が、過去の要素をそのまま使用するのでなく、現代の価値観のなかに取り入れるからこそ魅力的に見えるように、本作で復権されようとする価値観も同様に、やはり現代的にアップデートされ、時代の変化により配慮された上で提出されるべきものだったように思えるのである。

■配信情報
『オフィス・ロマンス』
Netflixにて配信中
出演:ジェニファー・ロペス、ブレット・ゴールドスタイン
監督:オル・パーカー
Ana Carballosa/Netflix © 2026.

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