『月夜行路』は大人の“過去との向き合い”を描いてきた “名作古典”と“個人の生”との共通点
そして東京編に入ると、物語の焦点はルナ自身へと移っていく。誰かの謎を解くことには長けているルナにも、長く触れられないままにしてきた過去があった。従兄の正義(田村健太郎)から、父・英介(石橋凌)が残したパソコンのパスワードを解読してほしいと頼まれたとき、ルナの表情はわずかに曇る。かつて大きな病院の跡継ぎだったルナは、小説家を目指して医大を中退し、それ以来家族と距離を置いてきた。父から投げかけられた「文学では人を救えない」という言葉は、彼女の中に深く残り続けていた。
第8話のバブリー(真田怜臣)のエピソードは、ルナ自身の問題を浮かび上がらせる回でもあった。バブリーは、幼なじみのマミ(恒松祐里)と再会するかどうかで迷っていた。マミの花嫁姿を見たい気持ちはあるが、過去を知る相手の前に立てば、今の自分ではなく昔の自分として見られてしまう。その怖さが、バブリーを立ち止まらせていた。これは、父・英介との関係から目をそらしてきたルナの姿とも重なる。ルナは誰かの過去を読み解くことはできるが、自分の過去にはなかなか踏み込めない。バブリーの迷いを通して、ルナが抱えている弱さも見えてきた。そして終盤では、そんな今度は涼子がルナの背中を押す。かつてルナに背中を押された涼子が、今度はルナの背中を押す展開もバディものならではだ。
ルナと涼子の旅は、人生を大きく変える旅ではなく、置き去りにしてきたものをひとつずつ拾い直す旅だった。涼子は、カズトの真意を知ることで、自分の人生に残っていた空白と向き合い、ルナは、父が残した暗号を解くことで、長く閉じたままだった親子の時間に手を伸ばしていく。バブリーや富士子のエピソードも含めて、本作で描かれてきたのは、見ないようにしてきた思いや、伝えられなかった言葉をもう一度受け取り直すことだった。だからこそ、父・英介が残した暗号に向き合う最終回は、ルナ自身が自分の過去を読み解く回にもなる。誰かの物語を読み解いてきたルナが、自分の物語をどう受け止めるのか。文学と人生を重ねてきた本作らしい締めくくりになりそうだ。
■放送情報
水曜ドラマ『月夜行路 ―答えは名作の中に―』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜放送
出演:波瑠、麻生久美子、作間龍斗、久本雅美、栁俊太郎、渋川清彦ほか
原作:秋吉理香子『月夜行路』(講談社文庫)、『月夜行路 Returns』(講談社)
脚本:清水友佳子
音楽:Face2fAKE
チーフプロデューサー:道坂忠久
プロデューサー:水嶋陽、小田玲奈、松山雅則
トランスジェンダー表現監修:西原さつき、若林佑真、白川大介
演出:丸谷俊平、明石広人
制作協力:トータルメディアコミュニケーション
製作著作:日本テレビ
©日本テレビ
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