『海街diary』はいかにして“家族”を描いた? 画面構成から読み解く是枝裕和の映像言語

 5月30日の『土曜プレミアム』枠で、是枝裕和監督の『海街diary』(2015年)が放送される。

 『誰も知らない』(2004年)における柳楽優弥のカンヌ国際映画祭最優秀男優賞を皮切りに、『そして父になる』(2013年)の同映画祭審査員賞、『万引き家族』(2018年)のパルム・ドール受賞など、日本を代表する世界的映画監督となった是枝裕和。ヒューマノイドを題材にし、第79回カンヌ国際映画祭コンペティション部門にも出品された綾瀬はるか・大悟(千鳥)主演の待望の最新作『箱の中の羊』(2026年)も、現在公開中だ。このタイミングで、改めて『海街diary』の魅力を演出面から紐解いてみよう。

 原作は、吉田秋生の同名漫画。鎌倉の古い木造一軒家を舞台に、四姉妹の何気ない日常を切り取った作品で、「マンガ大賞2013」をはじめとして数々の賞を受賞した傑作だ。原作の大ファンだった是枝監督が、「他の人に映像化されるくらいなら」と自ら名乗りをあげた(※)。

海街diary予告篇

 長女は、責任感が強く看護師として働く香田幸(綾瀬はるか)。次女は、恋愛体質で少々ズボラな佳乃(長澤まさみ)。三女は、マイペースで家族の潤滑油となる千佳(夏帆)。そして、父の死を機に引き取られることになった、どこか暗い影を背負う腹違いの四女・浅野すず(広瀬すず)。この四姉妹が織りなすアンサンブルが、本作の大きな推進力となっている。

 この作品では、是枝監督のフレーミング(画面の構成)と動線(役者の動き)の素晴らしさが際立っている。例えば、主人公の四姉妹が祖母の法事から自宅に戻るシーン。個々のキャラ設定が、フレーミングと動線だけで見事なまでに表現されているのだ。

 大叔母(樹木希林)と実母(大竹しのぶ)が画面の中央に陣取るなか、長女の幸はわずかに距離を取りつつ2人の会話に加わり、カメラの焦点はそこに合っている。その一方で、画面の右端に目をやると、次女の佳乃がストッキングを履き替え、左側では三女の千佳が仏壇に向かって静かに手を合わせている。そして画面が切り替わると、そこには蚊帳の外に置かれた四女・すずの姿。

 生真面目な長女、我が道を行く次女、素朴で優しい三女、そして微かな疎外感を抱き続ける四女。わずかワンカットの空間配置だけで、彼女たちの立ち位置が完璧に分かるようになっているのだ。

 さらに本作の空間設計においては、フレーム・イン・フレーム(枠内枠)が多用されている。ふすま、障子、柱、窓枠といった日本の古い木造家屋の構造を活かし、画面のなかにさらに「枠」を作ることで、画面に奥行きをもたらしているのだ。例えば、お風呂場に虫が出てきて佳乃が大騒ぎする場面。カメラは居間に佇む千佳とすずを家の外から捉え、格子状の窓枠がそのまま幾重ものフレームとなっている。窓枠という物理的な境界線を挟むことで、観客は家族の親密で騒々しい日常を、あえて一歩引いた客観的な視点から観察することになるのだ。

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