『花子とアン』から『風、薫る』へ 朝ドラヒロインを導く“厳しくも温かい”外国人教師たち
NHK連続テレビ小説『風、薫る』では、一ノ瀬りん(見上愛)と大家直美(上坂樹里)が女学校附属の看護婦養成所で学ぶ日々が続いている。主人公が成長していく過程が描かれる朝ドラでは、明治から昭和初期にかけての時代設定の場合、「女学校」が舞台になることも少なくない。そして、そこで出会った仲間たちや教師たちが、その後の主人公の人生に深い影響を与えていく。
『風、薫る』女学校編を見ていて真っ先に思い出されるのは、『花子とアン』(2014年度前期)だ。時代設定も近く、貴族のご婦人役として仲間由紀恵が登場したこともあって、どうしても彷彿としてしまう。どちらもミッションスクールであり、白人の女性教師が登場するのも共通している。ちなみに、『花子とアン』の修和女学校は東洋英和女学院、『風、薫る』の梅岡女学校は現在の女子学院がモデルとされている。
『花子とアン』で主人公・村岡花子(吉高由里子)が通った修和女学校には、カナダから派遣された教師たちが在籍し、生徒とともに寮生活を送っていた。なかでも恐れられていたのが、校長のミス・ブラックバーン(トーディ・クラーク)だ。規則を破りがちな花子はよく「ゴー・トゥー・ベッド」と命じられ、布団に入らされて謹慎処分を受けていた。
ブラックバーン校長は日本語をほとんど話さず、表情も冷徹。笑顔などほぼ皆無で、感情が動いても、せいぜい目尻をわずかに上下させる程度だった。常に冷静で理知的、分別そのものといった風情の厳格な人物だ。花子が落第しそうになったときも、退学処分の危機に瀕したときも、ブラックバーン校長はことさらに花子の味方をしたわけではない。温情をかけるのではなく、「正しい判断をすること」を何より優先し、フェアな判断として花子の学業を後押しした。卒業式でのスピーチは、その人となりをよく表すものだった。
「今から何十年後かに、あなたがたがこの学校生活を思い出して、あの時代が一番幸せだった、楽しかったと心の底から感じるのなら、私はこの学校の教育が失敗だったと言わなければなりません。人生は進歩です。若い時代は準備の時であり、最上のものは過去にあるのではなく、将来にあります」(英語)
卒業式で感傷に浸りかけていた女学生たちをピリッと引き締め、未来へと送り出すこの言葉は、花子の中にいつまでも残り続けることになる。
『風、薫る』のバーンズ先生(エマ・ハワード)にも、同じような空気を感じる。看護婦を目指す生徒たちは、ナースの制服に憧れる者やナイチンゲールに心酔する者、生きるすべとして学びにきた者と、それぞれ事情は異なる。しかしバーンズは、そういった個々の事情にはあまり踏み込まずに、ただひたすら「看護」という仕事を徹底的に教え込む。
現在は大学病院での研修中だが、バーンズは医師たちに対しても毅然とした態度で臨み、しっかりと主張をして自分のやり方を通していく。それは当時の日本女性にとって、かなり異質な光景だったのではないかと思う。
令和の現在にあっても、女性が「謙虚であること」「愛嬌が良いこと」を良しとする風潮は根強い。しかし、こうした外国人教師たちは、ピンと胸を張り、簡単には笑顔を見せず、言うべきことを言い、やるべきことをやる。誰かに媚びる態度を取ることがほとんどなく、凛とした態度を崩さない。バーンズが医師たちの前で日本語がわからないふりをするのは「その方が便利だから」という理由だが、「舐められないため」だともいえるだろう。
「媚びない強い態度」を自然にとれる西洋の女性教師たち。その振る舞いこそが、日本女性の社会進出にとって何より雄弁なお手本だったのかもしれない。
バーンズ先生は、ブラックバーン先生よりも柔和なタイプのように見える。日本語を話せることもあり、生徒たちと人情味のある会話を交わす場面もあるし、笑顔も見せる。しかし、りんが患者の和泉千佳子(仲間由紀恵)に寄り添い、「ありがとう」とお礼を言われたあと、バーンズは「看護は奉仕ではありません。仕事です」と釘を刺す。りんは人の気持ちのわかる優しい女性で、看護師に向いている資質を持っているが、生死を扱う厳しい仕事にとってそれは諸刃の剣でもあるのだろう。バーンズはそれを知っていて、忠告してくれたのだ。
ブラックバーン校長は、戦争が激しくなり、カナダへ帰国する。その際には再登場して花子と師弟であり続けることを再確認していた。バーンズとりんたちにもいずれ別れが来るだろう。けれど、そのときにはきっとお互いにとって忘れ難い存在になっているはずだ。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK